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永遠の魂  作者: シャイン
2/4

友人たちと。

第2話。何とか金曜日中に投稿出来ました、良かった良かった。

加賀くんと友人そのふたりが出てきます。



1-2



「___ッ!!」


ぐっしょりと濡れた背中。荒い呼吸を整えようと胸に手を当てると、普段より遥かに多い鼓動が感じられた。


「…現実、世界…」


夢の中__精神世界と言った方が正しいのだろうか。そこで少年、サクと出会ったことははっきりと脳裏に鋭くこびりついている。さらさらと揺れる白髪も、紫に光る右目も、その下にこびり付いた隈も、イケメンにしか許されない位置の泣きぼくろも。

恐らく、彼の言っていた現実世界というのは こちらの世界の話だろう。


ベッドの横にある棚に鎮座している目覚まし時計に緩慢な動作で手を伸ばし、時刻を確認する。日付も時刻も、加賀が高校から帰ってきてから ベッドに入った時間と大差ない。精神世界に居た時間はかなり長かったように感じたけれど、こちらではせいぜい1、2分の差だ。改めて向こうの世界の異常さを感じながら、加賀は勉強机に腰を据える。


「何処やったかな…あ、あった」


数週間前に薬局で購入したキャンパスノート。5冊セットで550円程度のそれは、常時金欠の高校生にとっては非常にありがたいものだ。余談だが、加賀は黒色テイストのセットがお気に入りである。

話が逸れた。


「精神世界について…これ、誰かに見られたら滅茶苦茶恥ずかしいな」


ぶつぶつと誰に聞かせるのでもなく呟かれた加賀の言葉は、部屋に溶けて消えていく。外では軽く雨が降っていて、それが逆に加賀の心を落ち着かせた。

穏やかに、淡々と。サクに言われた事を覚えている限り記していく。


「キラー、と…ビクティマー。ビクティマーっつうのは、殺された殺人者のこと…だったよなあ」


ビクティムでそもそも名詞じゃなかったっけ、といった思考が一瞬通り過ぎていった。あえてそれを無視して描き進める。


「で、夢牢…だっけ?が、ビクティマーの魂を閉じ込める牢屋…」


そこでふむ、とシャーペンをクルクルと回して考え込む。


「サクは、現実世界で会えたら本名を教えるっつってたけど…リンクしてる、って考えていいのか…?でも、無理だ、っつってたな…」


多分無理、と。その『たぶん』がどれくらい強いのかは分からない。そこにどんな意味があるのかは分からない。ただの言葉の綾かもしれないし、加賀の考えすぎという線も捨てることは出来ない、けれど。


『…すまない。まだ、キミは…18にもなっていなかったね』


その一言が、やけに頭に引っかかっている。


「…精神世界では…基本的に、なんでも可能…」


そ、とくちびるに手を当てる。少しだけかさついたそれが、ささくれに引っかかった。


きゅ、と口を引き結んでノートに書き込む。


"現実世界との年齢の不一致の可能性"


「はは、何でもアリだな」


思わず零れた苦笑い。口角を再度引き締める気も起きず、加賀はひたすらにノートに記していく。


"キラー=殺人者"

"ビクティマー=殺された殺人者"

"夢牢にいるのはビクティマーの魂"

"現実世界と精神世界はリンクしている"


ここまで簡潔に書き留めたところで、ふと違和感が頭を掠めた。


「待て、何だ…?何か、おかしくね…?」


1度ペンを置く。こういった時の加賀の直感の信憑性は、17年間ともに生きてきた加賀が一番よく知っている。


「もう一度、よく考えろ…。サクは、一体なんて言ってた?」


『____殺人者に殺された殺人者。それが、ここにいる人達の正体さ』


殺人者に"殺された"殺人者。

その一言を完全に思い出した瞬間、加賀ははく、と喉を鳴らした。


「…俺、何であの世界に行けたんだ…?」


ぶわり、と溢れ出す冷や汗。脳裏に留めておくにはあまりにも多すぎる情報量は、ノートに書き出していかないと忘れてしまうほど膨大だ。ガリガリ、とシャー芯が折れるのも構わず 加賀は手を動かす。


「魂の牢獄、ってのは百歩譲って分かる。でも…何で現実世界で死んだ筈の俺が…ここに居る?」


そ、と左手を胸に当てる。とくんとくん、と少し早目の鼓動を感じられた。間違いなく、俺はここに生きている。

それに、疑問はそれだけではない。


「………精神世界は、死んだ殺人者しか行けねえんだろ…?なら、俺とサクはどう足掻いても会うことは出来ねえ。…何で会うかどうかじゃなくて、名前の話を…?」


彼はあの時こう言った。


『僕は……、…サク。ごめん、ここで本名を言うことは出来ない。現実世界で僕を見つけてからなら、教えることは出来るけど…多分、無理だろうね』


百歩譲って絶対に無理、と言いきってくれれば この考えにも終止符を打てた。だが、彼が告げたのは ある程度の希望を持った『たぶん』。それは言い換えれば、ほんの少しの可能性でいいのなら__こちらの世界で、実体の『サク』に出会う事が出来るという事だ。

しかしそうであると仮定してしまうと、先程浮かんだ加賀の疑問が無くなる。即ち、『何故生きているはずの加賀が あちらの世界に行けたのか?』という話だ。

ぱらぱらとノートを捲り、その要項を書いてあることを確認する。こう見えて加賀は自身の記憶力には自信を持っているのだから。


「…どうせ考えても答えは出ねえか…疑問点だけ書いとこう」


"現実世界で死んだ者しか行けないのに 何故行けたのか"

"サクは何者なのか"


浮かんだ疑問を大きく分けるとそのふたつだ。彼__『サク』に尋ねることは決まったけれど、そもそもあちらの世界に どのようにしていけばいいのかが分からないのでは話にならない。ペンもノートも投げ出して、加賀は背もたれに背を預けた。


「…なんで俺、こんなの受け入れられてんだろ…」


椅子に着いているキャスターを動かし、部屋に着いている小窓からそっと外を除く。そこら中に散らばる赤色を目にして、眉を顰めた。


「…そうだ、教科書…」


今一度この世界の常識を確認しようと、加賀は押し入れの中に乱雑に突っ込まれた教科書の山をまとめて引っ張り出す。幸いビニール紐でまとめられており、崩れたりするような心配も無い。とはいえ中学生の頃の物であるから、ほとんどの内容__特に漢字や英単語、社会と言った暗記科目はほぼ全て覚えているのだが。彼のずば抜けた記憶力というのはこのような所でも役に立つらしい。


「えーと…あ、あった」


表紙に武士のような者が描かれた、茶色いテイストの歴史の教科書。パラパラと軽くページをめくり、近代の章を開く。


「…あれ?"夢牢"の事載ってたんだ…初知り」


大きな文字で"法律の無効化"と書かれたページ。他のページと違い、そこにはなんのマーカーも付箋も貼られてはいない。テスト範囲ではなかったのだろうか、と近くにあった黄緑のマーカーを手に取る。

きゅぽん、と軽い音を立て 片っ端から線を引いていった。



"2320年、全ての警察官が殺害される事件が起こった。それから事実上警察が機能しなくなるという異例の事態に移り変わる。その為法律を取り締まる人間もいなくなり、世間では銃刀法違反も危惧されず 当たり前に狂気を手にして歩く人間が増える事態となった。

そのため政府は1度殺人を容認し、殺人を犯した者と犯していないもので明確に世界を区分した。その世界は当然、互いに認知することは不可能。今現在ここに立っている者も、その世界がどちらかは自覚している事だろう"



「…こんなの…ほんとに、元からあったかあ…?」



明らかにこんなページは無かった、とはっきり断言することは出来ない。しかし少なくとも、加賀の今まで見た記憶の中に このような文章は存在しない。それでも、ここに書かれているのは 加賀が今まで生きてきた世界の常識だ。何となくモヤモヤとした黒い霧を抱えたまま、加賀は教科書に視線を走らせる。



"殺人者同士が殺し合いをするという異例の世界であるため、彼らは殺人が出来る権利ウェポンキーを賭けて闘うことになる。ウェポンキーとは夢牢の鍵であり、所持した時点で身体のどこかに刻み付けられる。

殺された殺人者はウェポンキーを奪われ、自分自身も牢に閉じ込められる。尚、ウェポンキーは空に差して回すことで ビクティマーを召喚可能"



「…なんでそもそも、殺人者同士が殺し合いをするようになったんだっけ…」



途中から教科書ではなくゲームの取扱説明書を読んでいる気分だった。夢牢の存在も知っているし、ウェポンキーの内容も常識だ。それでも、なぜだかそれらの知識は 加賀の頭にうまく馴染まない。


「『牢』ってのは…夢牢、だよな。やっぱ、秘匿情報ではあんのかな」


精神世界で出会った少年__サクの憎たらしい笑顔を思い浮かべ、思わずこめかみに青筋が立つ。あわててぶんぶんと頭を振り、教科書を閉じた。


「ま、明日先生に聞きゃあ良いよな。__寝よ」


時計を見ればもう8時。精神世界から戻ってきたのが大方6時半だから、かなり長い間熱中していたことになる。

首元のネクタイだけをかろうじて外して床に投げ、ワイシャツがしわくちゃになるのも構わず目を閉じた。



* * *




「でまあね、僕はそこまで遅刻に対して怒っている訳では無いのだよ。ああ語弊があったかな、そもそも怒っているわけでも別にないさ。ただねえ、きみ。今が何時か分かっているのかな。ああ、この教室の時計はズレているのだっけ__全く、ここの担任は一体何をしているのやら。ねえきみ、この教室の担任は誰だい?あれ、僕だっけ。すまないね、生憎スマホの時計だけで事足りるものだから。何もわざわざ自身の目で確認しなくても数字を読み上げるだけの方がしょうに合っていてね。授業中にスマホを見るのは教師としてあまり良くないものだから、如何せんこの時計はあまり僕には合わないんだ。全国の時計は全てデジタルにして欲しいものだ、教育委員会に訴えてみようかな。…何だか随分と話しが逸れた気がするよ、一体きみはどうしてそこに立っているのかな?ええと…27番くん。あ、思い出した。そうだそうだ、遅刻だ。いやね、僕もわざわざきみを1人呼び出してこんな生徒の前で叱るようなねちっこい真似をする男ではないとも。ああそうさ、僕は怒ってない、ただ事実を述べてるだけさ。それでもこれが説教のように聞こえるのならば、それはきみの心の後ろめたさが原因だろうね。話を戻そうか、きみはなんで4時間目に登校して来ているんだい?朝のHRにはいなかったよね、担任である僕が点呼を取っているのだから間違いないよ。左手に持っているのは…スクールバッグだね。随分平たいけれど、きみは何しに来たのかな。お友達と遊びに来たのかな。それなら単純にそこら辺に集まって話せばいいと思うのだけれど、違うのかい?あ、ちょっと。何処へ行くの。まだ授業中だというのに…ああ、席に着くのか。じゃあいいや、明日からは授業を中断させて教室に入ってくるのは辞めようね。…おや、もう授業が終わってしまうね。じゃあもういいか、どうする?あと5分。授業するかい?とはいえあと5分で41節を説明できる気もしないんだよね。とはいえ40節の話はし終わっちゃったし…困ったな。自習にするかい?でもあと2分だよ?たった2分で何が出来るのかな。あ、嫌味ではないよ。何でだろうね、さっきの事といい。やたらと僕誤解されるんだよね。どうにかならないかなあ、怒ってるわけでも嫌味を言っているつもりも無いのだけれど。でも相手がそう受け取るのならそう言う事だよね。いくら国語教師とは言えどね、心情を描くのはなかなかに難しいことだと言うのは 職に就いてから知ったね。いやはや、この歳になっても学ぶことがあるのだから全く人間というのは面白い。あれ、この発言ってもしかして高齢の人の発言かなあ。ねえどう思う、27番くん」

「せんせー、チャイム鳴ってんぜ」

「ほんとだ。じゃあね」


ひらひらと長いミルクティ色の髪を靡かせて、国語教師__九十九は部屋を出ていった。彼の説教(彼の言葉を借りるのならば『事実』なのだろうか)の元凶となった友人、新妻はへこたれた様子もなく 加賀達の元へ真っ直ぐ歩いてくる。


「おっはよー。陽輝、龍牙」


耳元で幾重にも開けたピアスがキラキラと光る。ピンク色の髪は教室内でも悪目立ちしており、まるでモーセの波のように人が道を開ける。哀れだな、と思う。勿論善良な性格を誤解されている新妻の話だ。どうしたの、と首を傾げて尋ねてくる彼にニコリと笑みを返す。


「おはよ、雷。今日は災難だったな、九十九先生の授業中に来るなんて」

「そんぐらい見越して遅刻して来いよ。どうせ損するのテメーだろ」

「龍牙はせめてもう少し授業出ようぜ」


ばァか、と皮肉げに口角を上げて笑うオールバックの少年。その鋭すぎる目付きで誤解されがち…大方あってはいるが、それでも過小評価されているのは確かだ。とはいえ彼を優等生と呼ぶにはあまりにも素行が邪魔をする。速水の 嫌いな教師の授業はトコトン出ない真面目さに遠い目をし、加賀は席を立つ。左手に、昨日マーカーを引きまくった社会の教科書を持って。

突然立ち上がった加賀に疑問を持ったのか、新妻はぱちくりとその黄檗色の瞳を瞬かせる。


「? 陽輝、どこ行くの?」

「便所か」

「ちっっっげえよ。職員室」


的はずれな意見を唱えながらもこちらから視線を外さない速水をじとりと睨む。はく、と新妻が息を吐いて。


「……、そっか。行ってらっしゃい」

「おう、行ってくる」


時々、こういうことがある。

特に危険なことも無いはずなのに、どこか心配そうにこちらを見るあのふたり。じぶんが知らないうちにあの二人を不安にさせているのならば、早く思い出さなくてはならない。

だって、自分はあの二人の親友なのだから。


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