第62話 ナイル川カヌーレース 其の捌
終わりだ。水神を怒らせることができなければ、
吉村さんに追いつきようがない。
泣いた。水面に落ちた一粒の涙が小さな波紋をつくる。
それは辺りに広がるに連れて儚く形を崩し、場は静寂へと還る。
落胆する俺の心を繋ぎ止めたのは、三郎だった。
奴は一枚のカードをこちらへ差し出している。
これは、三郎のEXカード!
俺に……使えと?
厚意には礼を言うが、駄目だ。
先刻、EXカードを使わないと、三人で契りを交わしたばかり。
ごめん、三郎。受け取れないよ。約束なんだ。
いくら押し付けてこようと、俺の決意は揺るがない。
まだくれようとするのか。
少しだけだぞ。サンキュー、ベイベー!
俺は譲り受けたEXカードを後腐れもなく使用する。
新たに定めたルールは、「俺が優勝者となる」。
運営の判断は……常識の範囲内!
最初からこうすれば良かった。後悔胸一杯。
ナイル川カヌーレースの優勝者は俺に決定。
第二関節シール1年分、数で言うと1095枚を手に入れた。
色は、言わずもがなで腐れた赤色。
1日3枚の計算か。毎食後に貼り替えろということであろう。
いや、食前の可能性も否定できない。
三秒間悩み抜いたあげく、俺はインド象に全て手渡した。
象の第二関節はいずこかな。




