第59話 ナイル川カヌーレース 其の伍
チーム主役は三郎と裁判長に第二休憩所で追いついた。
奴らに事情を話してゴールを諦めさせれば、
ヤスダがスポットライトを浴びる日も近い。
「前、失礼しまーす!」
新幹線と亀を足して0.5で割った速さで何かが通り過ぎた。
アセロラの申し子 ヤスダだ。
奴は俺たちの隙をついてEXカードも使用し、
アセロラの素揚げ1個をコロッケ100個分と換算するルールを付け加えた。
そして、水しぶきが弾丸の如く、裁判長の腹部を撃ち抜く。
「うぐっ……」
呻き声をあげながらも、裁判長は笑っている。
気が触れたか。いや、通常が乱心であるから、狂う余地もないのか。
何と!奴はアロハシャツの内側に新書を仕込んでいて無傷。
まるで団子屋のときの俺のようだ。
新書の表題は、『すぐに決断力が身につく1.08つの方法』。
十五夜グルメ対決が始まる前に読んでおいてほしかった。
いや、それでも遅い。第一に職業選択を間違えている。
それと、1と0の間にある小数点は詐欺に等しい。
個人的には、”1.08つ”の読み方が気になるところである。
チョキチョキ。下流でヤスダのカヌーとインド象が衝突したらしい。
カヌーは大破し、多量のアセロラがナイル川を埋め尽くした。
この際、ヤスダは切り捨てよう。やはり奴は脇役がお似合いだ。
よし、アセロラを拾い集めて、必ずや第二関節シールを手に入れてみせる!




