第150話 アイロン掛けに命懸け
アイロン掛け途中の服を破るつもりが、右脚をサソリに刺されてしまった。
奴が命令に背いた原因は、しつけ不足ではない。その逆、行き過ぎたしつけだ。
俺はサソリに、お手・お座り・変顔・空中ブランコ・微分積分を仕込んでいた。
きっと無理なしつけに対する日頃の鬱憤が爆発したのだろう。
エサも海鮮丼しか食べさせていなかったからな。
お前が辛い物に苦手意識があるのを知っていながら、
わさびを1トン添えたことも謝るよ。
サソリ、そう言えばまだお前に名前を付けていなかった。
……サンリでどうだ? サソリのサンリ。
読み間違いを誘発するようにという願いを込めて考えたんだ。
うぐっ。今度は左脚を刺しやがったな。そんなにサンリが気に入らないか?
ふっ、それでこそ俺のペットだ。ここでもしも俺を刺さなかったら、
新たに飲酒を仕込むつもりだったぞ。
え、未成年だから飲めないって? 法を守るお前は偉いよ。
もうじき毒が俺の体中に回る。誰か、血清を……。
どれだけ俺は眠ったのだろうか。起きると、辺り一面真っ暗闇。
しかし、遠く向こうに何かがあるのだけは確認できる。
そこを目指して俺は歩いた。歩き続けた。少し走った。
疲れを感じる前に、ジョギングに切り替えた。
気付いた時には、タクシーに乗っていた。
目的地に到着。これは……アイロンセット!
もしや俺にエクストリーム・アイロニングをやれと?
死の淵でアイロン掛け。ついでに命も懸けるってか。
上等だ。服のシワを一つ残らずなくし、俺は見事生き返ってみせるさ。




