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第146話 ロマンティック吉村さん

3秒サウナは、これまでに越えてきた試練に比べれば他愛もない。

狭い箱の中で熱気に3秒間耐えるだけなら、雪女でもできる。

「できません……」

本人登場。”妖怪 雪女”が長老ウサギのあご髭を掻き分けて出てきた。

「どろどろに溶けてしまいます……」

てっきり雪女は、真夏の南西諸島でキムチ鍋を食べながら、

気体状態の鉄を眺めて休日を過ごすと信じ込んでいた。

意外にか弱い一面があるのだな。


 物静かな彼女は、高揚感のある場の雰囲気に

上手く馴染めず、右往左往している。

「あの、その、えっと……金剛力士像ポーズ!

 うわっ……は、恥ずかしいです……」

ズキューン! 吉村さんの心臓が甲高い音を立てて、恋の矢に撃ち抜かれた。

既に奴は雪女の虜。今作では稀有な女性の可愛らしい仕草に、

吉村さんはまんまと魅せられてしまったのだ。


 恋愛は人を変える。ともかく吉村さんの格好が、普段とは全くの別物。

全身チェーンに麦わら帽子とマフラーと、まるで季節感を感じさせない。

奴は意を決して、雪女に声を掛けた。


「雪女さん、突然済みません。伝説の男 吉村良男と申します。

 もし機嫌が悪かったら、おメロンソーダにでも行きませんか?」


『もし都合が良かったら、お茶にでも行きませんか?』であろう。

これでは、ヤケ飲みに誘っているとしか思えない。

「私なんかでよければ……」

好感触。雪女も物好きだ。

「ぜひぜひ! 炭酸の強さはどうします?」

「微炭酸で……」

「了解です! 味の濃さは?」

「薄めで……」

「薄め、と。じゃあ、オススメの店があるんで、奢って頂戴」

おじゃん。

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