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第145話 懐古はほやほやなうちに

 十二右衛門は単身で小説迷宮に乗り込んだ挙げ句、

何者かの手により、大砲の弾となって追い返されたようだ。

隣人をこの場所に閉じ込めた式神 火山小僧は、第4層で見張っているはず。

侍の汚点に構っている暇はないだろう。ならば、共犯者がいるのか。

小説迷宮、予想以上に手強いかもしれない。


 第3層は一般的な迷路。とりあえず勘だけを頼りに道を進んでいく。

あっ、袋小路に入ってしまった。ついていない。

ところが、引き返そうとした次の瞬間、背後のシャッターが急に下がった。

相変わらず両横には、コンクリートの壁がそそり立つ。

四方八方を囲まれた俺たちに、逃げる手段は残されていない。


 「お疲れ様です。よくここまでやってこれましたね」

声のした方向を見上げると、誰かが巨壁の上に腰かけていた。

そいつはよれた狩衣に身を包み、全ての指の間に式札を挟んでいる。

「閉じ込められたからと言って、悪く思わないでくださいよ。

 火山小僧の主人である私を疑わなかったあなたたちの責任ですからね」

隣人の居場所を俺たちに教えることができたのはそういう訳か、蒼龍。

インド象の鼻中で転がる勾玉に心奪われていた所為で、

お前を怪しみすらしなかったのは確かだ。

あの頃の俺は天真爛漫だったなぁ。

余計なことは何も考えず、人生を目一杯楽しんでいた。

昔はよかった。二週間前はよかった。

「このコンクリートの檻から解放してほしければ、

 今から私が出す任務を遂行していただきたい。

 そして、その任務とは……」

グビ グビ ゴクリ。蒼龍の発言を、俺は喉越し抜群の固唾を呑んで見守った。


「3秒サウナです」


楽勝の骨頂。

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