第141話 論文『仇討ち』
現代社会は仇討ちの横行という非常に深刻な問題を抱えている。
主な事例としては、食べかけの饅頭を奪われる被害に遭った家族や友人を
持つ人が、犯人を恨み、自ら仇討ちに手を染めてしまうことが挙げられる。
我々はこの問題に対してどのように向き合っていくべきなのであろうか。
饅頭泥棒についての有識者 吉村良男は、
「食べかけ饅頭泥棒が近年、増加傾向にあるのは、
実は理屈が通っているのです。
前提として、人間は定期的に空腹状態に陥ります。
そのときの苦しみから解放されるためには、饅頭を盗る以外にありません。
もしも食卓に塩ラーメンがあればそちらを優先的に食べますが、
塩ラーメン代替食行動を偶発的に為せる確率はごく僅かです。
また、八割方の手付かずの饅頭には聖なる力が宿っており、
並大抵の人間は触れることすらできません。
そのことにより、聖なる力の弱まった食いかけのそれを
狙う犯行が増えてきているのです」と難解な独り言を二日に一度語る。
上記の能動的解説に信用に足る根拠は一切なく、
塩ラーメンに胡椒を振るか否かで好みが分かれるとしか断言できない。
では、なぜ食いかけ饅頭泥棒の存在が仇討ちに繋がるのか、
塩ラーメンにきな粉を振る派の吉村良男はこう語る。
「食いかけ饅頭泥棒の被害者は総じて、
人間関係を大切にしているからだと言えます。
饅頭を一気に頬張ることなく、二口以上で食べている時点で歴然でしょう。
愛情や友情で結ばれた人の饅頭が奪われたとなると、
彼らはすぐさま理性を失います。そして、その結果、仇討ちに至るのです」
以上、仇討ちと食いかけ饅頭泥棒との間には何の関連性もないことが分かった。




