第133話 詩ミステリー
プリンを取っておいたのにな
冷蔵庫に入れて大事に取っておいたのにな
後で食べようと思っていたのにな
誰かが食べちゃったのかな
誰が食べちゃったんだろうな
事件現場の写真を撮影して
容器に付着した指紋を鑑定して
そばに残された凶器 スプーンからDNAを採取して
犯人は逃がさないよ
おかしいな
犯人は俺だという結果が出たな
あれ 自分で食べたんだっけな
忘れていたな
あれ なんで冷蔵庫を開けたんだっけな
あれ なんで俺はここにいるのかな
あれ 俺の名前はなんだっけな
あれ あれ あれれ
詩ミステリー史上最高傑作ができた。
世界に詩ミステリーはこの作品しか存在しない。
約束された称号を獲得してぬか喜び。これもまた一興。
第1層の番人は作品に目を通している間、何度も小さく頷いていた。
内容に共感してくれたのか、大粒の涙を流してもいた。
さらに、口からヤマタノオロチが飛び出したり、引っ込んだりもしていた。
「詩ミステリー界にもようやく一筋の光が差し始めたらしいな。
よろしい、第2層への進入を許可しよう」
番人がそう言うと、内側の壁全体が徐に下がり出し、
中心部を目指せるように。
「お前の作品に感動したからこそ伝えておくが、
人質が囚われているのは第4層。
道のりはまだまだ長い。気を緩めずに次の層へ向かいなさい」
親切な番人さんだこと。
この先役立つものとして、奴は俺の手に何かを黙って握らせてきた。
何でも海で遊ぶときに使えと言う。
萎んだ浮き輪。かなり先のことを見据えている。




