第132話 違法であれ
書き立ての字からは程良い湯気が上がっている。凄まじい筆圧だ。
ちなみに、字の種類は日替わりとなっており、
今日のメニューは年に一度あるかないかぐらいに貴重な『薔薇』。
画数が非常に多いので、書き手もこれはあまり気が進まないらしい。
だが、厳選された品質の和紙に書き殴られた『薔薇』の二文字は、
680円という安値を全くもって感じさせない。
オーナー安本孝直伝の職人技、畏れ入る。
「はい、こちらがご注文いただいた字になります。
特大焼肉弁当もお付けしておきますね」
無償サービスが特大。食欲をそそられた俺は、会計後すぐに一口だけ味見を。
うえっ。とても食えたものではない。
何のために字を購入したのかが今でも分からない。
また、焼肉弁当も自主回収レベルであり、
まるで680円をどぶに捨てたようなものだ。
この虚ろな気持ちとどう向き合えばいいのだろうか。
「あちきが開発した薬で気晴らししないの?」
プリンセス椿が心の弱みに付け込み、自作薬物の乱用を勧めてくる。
断る勇気。それを俺自身に言い聞かせている最中にはもう、
薬を口の中に入れられてしまっていた。
間を置かずに全身が快感を覚えている。
これは……”合法新薬 ノンジャダメZettai”!
法律で認められた薬ではあるのだが、名前の所為で罪悪感が計り知れない。
要らぬ心配で余計に体調を崩した。どこかに休めるベッドはないか。
辺りを周回していた第1層の番人が、蹲る俺を見つけて近寄ってきた。
「君たちが小説迷宮の挑戦者だね。
第2層に進みたいのなら、私を満足させる小説を書いてみなさい。
お題は『詩ミステリー』だ」
新ジャンル開拓。




