第131話 S・C・D
店員が、商品の具体像を全く掴めない俺を見兼ねて、声を掛けてきた。
「本日のおすすめは『字』になりますが、いかがでしょうか?」
単価680円という手頃な値段が俺の手を無意識に伸ばさせる。
「ご注文ありがとうございます。
サイズの方をS・C・Dの中からお選びください」
小・中・大の頭文字日本語版。では、”特大”のTでお願いします。
わざと選択肢に無いアルファベットを言い、混乱させてみる。
「就職活動は羅針盤にチーズを乗せれば済みますよね」
想像以上の大パニック。
もらいパニックで俺も両腕を大きく横に振りながら、
発熱した二の腕でパンケーキを焼いてしまった。
マリアナ海溝で採れたメープルシロップを惜しげもなく掛けて瞬間冷凍。
はい、これでパンケーキシャーベットが不完成。
隠し味として、穴子の握りを入れるのを忘れていた。
「Tですね。畏まりました。
次に味付けの方をS・C・Dの中からお選びください」
塩辛い・丁度いい・泥苦いの頭文字日本語版。
従来は視覚で字を感じていたが、味覚でも楽しめる日が来るとは。
では、”とても食えたものではない”のTでお願いします。
「退職金で世界中の梯子を買い占めれば人生安泰ですよね」
労働者時代の30年強をどう過ごしていたかが気になる。
また、二回目の料理であったので、穴子の握りを入れ忘れることはなく、
誰が見ても完璧なパンケーキシャーベットが出来上がった。
実食。ふむふむ、この味は……Cだな。
チャレンジャー向け。




