第130話 ダミーのダミー
散らばった前歯を拾うか、警備ロボットを倒すか、非常に迷うところだ。
脳内協議によれば有無を言わさず前者を選ぶべきらしいが、
十二右衛門に差し歯の裾分けをしてもらえれば歯には困らない。
それならば、警備ロボットの討伐に全力を捧げよう。
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。
そして、当事者に聞くのが最も手っ取り早い。
警備ロボット、お前を倒すにはどうしたらいい?
「質問二回答シマス。私ノ後頭部二アルボタンヲ強ク押シテクダサイ」
隙だらけだな。遠慮なく押させてもらうぜ。
俺は壁を利用して、俊敏に奴の背後に回り込んだ。
な! こうなっているとは聞いていないぞ。
「ボタンハ全部デ30個アリマスガ、ソノウチノ29個ハダミーデス」
本当だ、29個のボタンそれぞれに『ダミー』という3文字が刻まれている。
つまりは、刻まれていないのを押せばいいだけ。
楽勝だっ……バァーン!
残りの一つは起爆スイッチ。ダミーと変わらない。
警備ロボットは跡形無く吹き飛んだ。
ここ最近、特に爆発過多で身が持たない。どこかに精のつく物はないか。
満身創痍で奥へ進むと、近くに一軒の小屋が佇んでいた。
「安本雑貨 小説迷宮支店へようこそ。
只今、タイムセール前記念タイムセール中です」
永遠に続く値引き期間。ここで目ぼしい物を探したい。
「こちらのメニュー表からお選びください」
渡されたメニュー表は液体。見にくいことこの上ない。
辛うじて視認できた商品のラインナップは、皮・実・字・気・差。
卓越した抽象性。




