第128話 俺がやらなきゃ俺がやる
上からが駄目なら、下からだ。
地下を掘り進めて、中に入るとしよう。
世界一周を終え、遍く文化に気触れた犬よ、ここ掘れワンワン。
「頼み方というものを知らないんですかワン?」
各地での豊富な経験が奴を小生意気にしている。
どうかここをお掘りになってくださいテンテン。
ワンワンは苦し紛れに10倍にしてみたが。
「誠意は言葉でなく、行動で見せてもらわないとですワン」
何という屈辱。詐欺師犬に土下座を強要される日が来ようとはな。
だが、やるしかあるまい。俺がやらなきゃ誰がやる。
「俺がやる」
吉村さん! 『俺』が誰を指すのか分かりにくかったが、ありがたい。
犬の方を真っすぐ見据える吉村さん。
奴は唇を噛み締めながらも、両脚を折り込み、額を地面につけた。
大人の覚悟がありありと感じられる。立派だよ。
すると奴が突然、額を支点として前転し、足裏で犬を蹴り飛ばした。
奇襲を受けて吹っ飛んだ犬は小説迷宮の壁に激突し、
怪獣でも通れるサイズの大穴がそこに開いた。
犬バズーカはダイヤモンド弾丸よりも強し。世界を揺るがす名言誕生。
「俺が本気で土下座をするのは、冬眠中の熊を起こした時だけだぜ」
この決め台詞は、熊冬眠安全推進協会会員のハートを鷲掴みにすること必至。
個人の采配にはなるが、他人の鼻毛を無断でブリーチした時も追加してどうぞ。
顔に乗った瓦礫の山を払い除けて、犬がゆっくりと起き上がった。
「タンコトウ。ルシエント。ムネジャイ。アナアイシファ。ソワグンダ」
世界の言葉で「ごめんなさい」。ただ誤用が一つ。




