第127話 苦肉の策
「忘れ物、忘れ物。お持ち致しましたー」
気の利く車掌がわざわざ拳銃のパーツを届けに来てくれた。
どうもご親切にありがとうございま……ザーンッ!
車掌、落下。目と鼻の先の距離にいる人が
急に姿を消すイベントは、何度体験しても肝を潰す。
「落とし穴、落とし穴。足元にご注意ください」
直近の被害者による呼びかけは説得力が尋常でない。
落とし穴から命からがら這い出たプリンセス椿。
拳銃を組み立て、ダイヤモンド弾丸も再度補充する。
比較的薄い壁に狙いを定めると、発砲。
弾丸は回転しながら反対側の壁まで一気に貫通した。
途中で「あっ! 最愛のカスタネットが木っ端微塵だ……。
だ、誰がやった? 極悪人め!」と聞こえたのは、長旅で疲れているからかな。
前提として、小説迷宮の壁はべらぼうに硬い。
ダイヤモンド弾丸を撃ち込んだ跡に小さめの穴ができているだけで、
崩れる気配は一切しない。
壁をよじ登って上から侵入するしかなさそうだ。
だが、この壁は摩擦の存在を忘れさせるほど平滑である。
ならば、帰ろう。面倒事は避けよう。
隣人よ、またの機会に会おう。健やかにひと夏をお過ごしください。
と言っても、帰りの列車がない。その前に車掌が地の底だ。
仕方ない、ジェット装置を使って、隣人を助けに行くか。
説明しよう。ジェット装置とは、吉村さんとプリンセス椿を両脇に抱え、
奴らの鼻息を動力源とするハイテクノロジカル・イクイップメントのことである。
ジェット装置、起動! 上昇値2cm。




