第125話 選ばれし者(中編)
五番手は忘れ物をした張本人 プリンセス椿。
世の摂理を考えれば、奴が率先して取りに行くべきであるのだろうが、
曾祖母譲りの厚かましさが前面に発揮されている。
不要な隔世遺伝。『天才は忘れた頃にやってくる』とは、まさにこのこと。
これを才能と呼べるか否かは議論の盛り上がるところである。
図々しいプリンセス椿が阿弥陀くじに沿って進むと、
道のりの途中に山積みにされた冊子の数々が。
今は夏休みの真っ直中。奴の通う小学校からは、
国語・英語・米語・季語・隠語といった5教科の宿題が大量に出されているのだ。
英語を二種類学ぶ徹底っぷり。語学特化が過ぎる。
椿が前に進むためには、これらの宿題を解き終える、
もしくは最終手段を使わなければならない。
奴は宿題と対峙せず、無視して歩みを進めた。
『プリンセス椿 は 最終手段 溜め込み を使った。』
最終日に地獄を見るとは露知らず。
でも、幼いうちに一度痛い目に遭うのがいい。その方が奴も成長できる。
ちなみに俺は、初日に意図的に紛失する型であった。
休み明け最初の登校日に、先生が雷の代わりに落とすハンマーは、
ざっと頭がかち割れるくらいに痛かったのを覚えている。
我が身を顧みずに宿題の妨害を潜り抜けたプリンセス椿が
次に目にしたのは、宿題代行屋。
宿題はなるべくなら自分で解くのが本人の為にもなるが、
あの奇妙奇天烈な内容では他人に頼むのも致し方ない。
だが、椿、ここは誘惑を断ち切る意志の固さを見せてくれ。
すると、奴は平然とした態度で宿題を取りに、
阿弥陀くじ史上初の逆走をしてみせた。
みせるものが違う。




