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第117話 我流胸骨圧迫

 イリオモテヤマネコは全力疾走で動物園の中へ逃げていった。

被害総額150,100円。笑って許せる範疇を超えている。奴を探すぞ。


 始めに見回るのは、類人猿コーナー。

お、子どもの憧れ ブラッザグエノンだ。あら、アビシニアコロブスまで。

「あちきにはたまらんわ。丸呑みで食っちまいてぇくらいや」

俺もプリンセス椿も十分楽しめたので列車に戻ろうとしたそのとき、

檻の中でペロペロキャンディを圧縮し、

ペラペラキャンディへ変貌させている三郎を見つけた。

その側には勿論、飼い主 吉村さんの姿もあった。

そして、『スミス・J・新村 生誕の地』と記された看板が

申し訳程度に生き埋めになっていた。


 奴らはここに囚われていたのか。

類人猿に区分けされてしまった吉村さんの顔が僅かに悲しげである。

お前は一人じゃない。隣には六法全書を抱えた裁判長もいる。

ところが、奴の表情は吉村さんと対照的ににこやか……でもなく、

もとより顔がなかった。そう、目も鼻も口もないのだ。

まさかお前は、ギャンブル動物園に棲みつくと

語り継がれている”妖怪 のっぺらぼう”!

「ヒヒヒ、本当の裁判長様は別の場所に匿ってありますよぉ。

 あのお方は妖怪界になくてはならない存在ですからねぇ」

後回し、後回し。やるべきことが多すぎる。

小説迷宮に向かっていることなど、もう誰も覚えていやしないだろう。


 吉村さんの怯えようが甚だしい。

奴は驚きのあまり、鼻から泡を吹いて仮死状態に陥った。

三郎、すぐに心臓マッサージをしてやってくれ。

あぁ、回転させた拳を勢いよく心臓に突き刺せとは言っていないのに。

「ゴフォッ!!」

意識がはっきりしたのなら、結果オーライ。

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