第114話 トップタイで眠たい
予想外の事態に取り乱した市川さんが市川院長に尋ねる。
「じゃあ、本当の父さんはどこにいるんですか?」
市川院長は機関銃を机の上へ置き、
床から生えているベニテングタケに腰を下ろして答えた。
「彼は品行方正タウンにいないよ。かなり前に旅に出掛けた」
告白の内容よりも病院の衛生観念が心配で夜も眠れない。
実は知らず知らずのうちに、
カフェインを過剰摂取していたというのがオチなのだが。
早朝にコーヒーゼリーを眺めすぎたのがよくなかったのであろう。
俺の目は、あの震える漆黒の半固体に59分間も吸いつけられ、
バキバキに覚めてしまっていた。
しかし、あと1分だけでも吸い続けられていたら
ギネス世界記録更新だったと思うと、悔しくて夜も眠れない。
二夜連続の徹夜は身を滅ぼす。
結局は眠気に勝てず、午前5時に寝てしまったというオチなのだが。
「行き先とかは言っていなかったですか?」
「特に決めてはいなかったな。放浪の旅なんじゃないか?
そう言えば、息子と何度も出会ったと、手紙で教えてくれたよ」
「え、そんな! 父さんと会って、私が気付かない訳が……」
市川さんの父親は俺たちと面識があるようだ。
思い当たる節は一つ、黄金仮面男。
奴だけは素顔を晒していなかった。可能性は高い。
「彼は文面中に『ソワグンダ』と書き荒らしてもいたぞ」
憶測が確信に変わった。ソワグンダは嘘をつかない。




