第113話 市川コロニー
「誰だ、貴様は?」
市川院長は市川さんに銃口を向けた。
親が子に対して取る行動とは思えない。
「父さん、私を忘れたんですか? あなたの息子、秀麗ですよ!」
「秀麗? あぁ、あいつの息子か。悪いが、父親は俺じゃないぞ」
あまりにも冷酷な対応だ。二人の間に確執があるらしいな。
「人違い……? あ! 思い出した。ってことは、まさか……」
「そうだ、この街の九割五分の住民は『市川』という名字の開業医だ。
病院の外観も見紛うほど似ている」
ややこしい街やのう。この一言に尽きる。
「でも、あなたの顔は父さんそのものです。
両目尻の星型黒子、透明がかった鼻下、ヒラメ唇、
ワンダーランドのような輪郭、未だに父さんでしか見たことがありません」
子にしか分からない親の特徴は確かにある。
「左隣の家が整形外科なんだよ。
この前、街の皆で話し合って、
そこで全員が君の父親と同じ顔にすることに決めたんだ」
事をさらに複雑にしてくれたな。皆が同じ個性を持てば、それはもう無個性だ。
顔での判別は不可能に近い。
「でも、あなたの声も父さんそのものです。
この世の雑音全てを集約したような声、
未だに父さんでしか聞いたことがありません」
市川さんの表現力に脱帽。まさにその通りなのである。
「右隣の家が耳鼻咽喉科なんだよ。
この前、街の皆で話し合って、
そこで全員が君の父親と同じ声にすることに決めたんだ」
市川院長増殖計画、絶賛進行中。
ここまで住民を一色に染め上げてしまう市川さんの父親は何者?
恐らく品行方正タウンのスターなのだろうな。
声での判別も不可能に近い。ギブアップ。




