第106話 マッチョお断り(前編)
マナーポリスの標的が俺からリゲルマンへと変わったため、
悠長に病院を探すことができる。
「私をただの月のウサギとお思いでしょうが、
品行方正タウンこそが私の生まれ故郷なのです。
少しくらいであれば道案内もできますよ」
それは非常に助かる。どうか病院まで頼む。
長老ウサギは、達者な喋りと共に案内をしてくれている。
「私がこの街から引っ越した経緯は、
Webで調べていただければ4ページ目くらいに出てきますので、死に際に是非」
冥土の土産がそれでは閻魔に殴られる。
東京ヨシムランドまで遊びに来たフィリピンのバナナ農家集団の
入場パスをシュレッダーにかけた俺が、天国へ行ける訳がないからな。
「検索する際は、『ウサギ 悪行 追放 月流し』がよろしいかと」
これで興味を惹かれない人はいない。2ワード目から俺は高ぶっているぞ。
シュレッダーの件に戻るが、ハサミを使って手作業で丁寧に切り刻んでいれば、
丸く収まった気もしなくはない。機械には出せぬ人間の真心、尊い。
「着きました。こちらが市川医院でございます」
市川? 市川さんと何かしらの関係があるかもしれないな。
早速、中に入ろう。まずは整理券を取って……
ビー! 警報装置が鳴ってしまった。
「その整理券はダミーですにゃ。
ちょっと、奥の部屋まで来てもらえますかにゃ?」
強面で筋肉の隆々とした、二足歩行のイリオモテヤマネコに声を掛けられた。
今は、特別天然記念物でさえ言語を操る時代か。
奥の部屋に移ると、イリオモテヤマネコは入口の南京錠を閉めた。
密室にマッチョ。危険な香りがしてならない。
「私の上腕二頭筋、触ってみますかにゃ?」
いいえ、結構です。




