「雨宿りさせてください」と後輩が家にやってきたけど明らかに晴れてるよね!?
よろしくお願いします!
「せんぱーーい。雨宿りさせてください!」
「は?」
元気よくそう言いながらビショビショの姿を見せる栗色の髪の少女。着ているシャツは濡れて彼女の肌に張り付いている。
ーーこいつ何やってんだ?
学校の後輩である宮坂 千香が何故か晴れているのにも関わらず俺の家に雨宿りにやってきた。
♢♢♢
七月二十五日土曜日、天気晴れ。むしろ雲一つない快晴。だからこそ目の前にいる少女に不信感を覚えた。
「お前、何で晴れてるのに濡れてんだ?」
「ん?(ニコニコ)」
「いや、「ん?」じゃなくて、何で晴れてるのに濡れてんだ?」
俺の問いに対して終始ニコニコした表情を見せていた宮坂だが、突然真顔になると、
「先輩、そんな小さいことばかり気にしてると嫌われますよ?」
いや、小さいことじゃないから! 結構重要なことだから! てか、急に真顔になるのやめろよ!
「小さい事じゃないと思うんだけど……」
宮坂の奇怪な言動に俺が雨宿りを拒んでいると「もう!」と彼女は頬を膨らました。
「と・に・か・く! 私の中では大雨なんです!」
どんな理屈だよそれ。ここ三日間はずっと快晴だったはずだよね!? 雲一つ見かけなかったんだけど。え、気のせい?
「いや、でもなぁ。付き合ってもない女の子を男一人の部屋に入れるのはちょっと……」
「何でですか!? 可愛い可愛い後輩にこんな状態で帰れって言うんですか!」
確かに宮坂の言うことも一理ある。彼女は言ってしまえば美少女だ。しかも、今は濡れていて……その、色々とまずい。そんな状態で一人で帰れというのは気が引ける。
「よし、分かった。何か羽織るものとタオルを貸してやる。それと家まで送ってくよ。それでいいだろ?」
「何でそうなるんですか!」
再び頬を膨らまして怒る栗色の髪の少女。
何か間違っていたのだろうか? 結構マトモな解答をしたつもりだったのだが。
俺と宮坂の言い合いを聞いた、たまたま近くにいた同じアパートの人達が「何だ何だ」と様子をチラチラと見ていた。
あー、これ絶対修羅場か何かと間違えられてるよ。早く終わらした方が身のためだな。
「とにかく、タオルと羽織るものを貸してやる。そして雨だというなら傘もやろう。それでいいだろ?」
「何で……そうやって帰そうとするんですか! いつでも来ていいって言ったのに! 遊びだったんですか!」
いや、ちょっと語弊のある言い方やめてくれません!? 先輩クズ男みたいな目で周りから見られてるよ!?
「いや、いつでも来ていいとは言ったけど家とは言ってないし……」
確かに俺は昔彼女に言ったことがある。「まぁ、いつでも遊びに来ていいからさ」と。でも、これは教室にという意味であって決して家ではない。むしろ、家と間違える人がいるのか疑問だが。
「教室とも言ってません!」
前言撤回。いたわ、ここに。一名。
周囲の人達の「さいてー」だの「何あれ、彼女さん可哀想」だのが耳に入る。
何もしていないのにどうやら俺はボロカスに言われているらしい。ちょっと酷くない!?
そして、宮坂の追撃。
「先輩のせいで、私の心は大雨ですよ!」
「分かった! 分かったからとりあえず上がれって! 中で話そう!」
羞恥心と何故か分からぬ罪悪感に負けた俺はそう言うと宮坂の腕を掴み、自分の家の中へ連れ込んだ。連れ込んだと言っても決して卑猥な意味ではなく、物理的な意味であることは言っておこう。勘違いされたら困る。
俺はちょうど洗濯し終えて畳んだ後のスポーツタオルを手に取ると宮坂に投げた。彼女の顔にちょうどに直撃し「ワッ!」と可愛らしい声が部屋の中で聞こえる。
「せーんぱい」
濡れた髪を拭き終わった宮坂が可愛らしい声で俺を呼びながら近寄ってくる。
「どうしたんだ? まだ文句でもあるのか?」
「人をクレーマーみたいな扱いするのやめてくれません!?」
「え? じゃあ、他に何かある?」
「ちょっと!? 私一回も文句言ってないんですけど!? さっきから文句言ってたのって先輩の方ですよね!?」
何だよ。俺がいつ文句言ったってんだよ。
「俺がいつ文句言ったんだよってさっき言ってたじゃないですか!」
はぁ、言ってることが支離滅裂だな。
「それは先輩でしょう!?」
え、いや、ちょっと待って。さっきから心をすげぇ読まれてんだけど。え、何? 怖い。
宮坂はため息をついた後、もう一度「せんぱ〜い」可愛らしい声を出す。こう言うのが人気の秘密なんだろうな。
彼女は学校で男を中心に好かれている。その原因はこれだ。この小悪魔なような仕草や声、表情が男のドストライクなのだ。
「お風呂、貸してくださいよ〜」
半ば強引に家に入った少女は図々しくもお風呂を貸せと言ってきた。
「まぁ、いいけどさ。着替えとかはどうするんだ?」
純粋な疑問。流石に濡れている服を再び着るのはまずいだろう。まぁ、コイツの家とここの距離はそんなに遠くはないのだが。
「無いなら、俺が貸そ……」
「ちゃんと持ってきて……」
声が被った。たまに友人とも声が被ることがあるのだがそういう時は大体気まずくなる。それと同様宮坂とも気まずくなる。なので、沈黙をかき消すべく俺が先に口を開いた。
「も、持ってきてるなら問題ないか」
そもそも着替えを持ってきている時点でおかしい気もするがまぁ、よしとしよう。
そう言えばカバンだけは濡れてなかったような……。
俺の「じゃあ、いらないか」という発言に対してまるで法廷に立つ弁護士のごとく抗議する少女。
「問題ありありです! 貸してください! 無ければ死にます!」
「いや、でも持ってきてるなら別に無理に着なくても……」
「もう! 先輩の分からず屋!」
宮坂は何故か必死に俺の服は必要だと主張している。それと所々に「服を貸さないなんて最低ですよ!」「上げて下げるなんて卑怯です!」「私の悔しがる姿を楽しんでるんですか!」などとキツイ言葉を飛ばしてくる。
今日俺の好感度理不尽に下がってないか!? 主にコイツのせいで。本人からもだだ下がりだし。
宮坂があまりにも押し切るので俺は渋々服を貸すことを承諾した。「えへへ、先輩の匂いだぁ」などと不思議なことを言っていたが何を当たり前のことを言ってるのだか。
しばらくして、持ってきていたスポーツ用の服に俺のパーカーを羽織った宮坂が少しニヤけた表情でお風呂から出てきた。
風呂上りの香りが漂ってきて、どうして同じシャンプーを使っているはずなのにこんなにもいい香りがするのかと疑問に思う。
「先輩! どうですか!」
何やら両手を広げて褒めてと言わんばかりに質問をする後輩。俺は素直に「うん」とだけ言って頷いた。
すると、宮坂は「え? それだけですか?」言わんばかりに睨んでくる。
だが、待ってほしい。最近は眼鏡を褒めただけでセクハラになると聞いたことがある。つまり、俺がここで素直に「可愛い」と言う感想を言ってしまえば問題だ。逮捕されるかもしれない。
しかし、あまりにもシュンとした姿を見せられるのも酷なのでセクハラにならないであろうと思われる言葉で感想を言う。
「可愛いかは分からんが少なくても俺が着るよりかは……良い……と思う」
「あ、当たり前です! でも、そっか……良かった。えへへ」
少し顔を赤くしながら喜ぶ後輩の姿に思わず俺も微笑んでしまう。
同じ笑顔でも宮坂の笑顔がなんだかんだで一番好きなのかもしれない。まぁ、本人に言うつもりはないけど。
まだこの可愛い後輩を見ていたいと少し名残惜しさも感じつつも、仕方がないと自分に言い聞かせて帰るように促す。
「じゃっ、家まで送るよ」
「え? 何言ってるんですか、先輩は」
「何って、雨も降ってないしそろそろ家に帰そうと……」
「いえ、まだです!」
はて、俺の後輩は頭がおかしくなったのだろうか。いや、元からか。
「だから、三日前からずっと快晴だってば。むしろ雲が無さすぎて怖いくらいにな」
「ち、違うもん! 私の中では雨降ってるもん!」
も、もん!? 敬語が取れて思わず素が出てしまったのか可愛らしい単語が聞こえた。
自分の部屋に可愛らしい女の子をこれ以上滞在させるのもあまり健全とは言い難い。
だから無理やりにでも帰そうとしたのだがーー家のインターホンがピンポーンと音を鳴らしたので動きを止めた。
「あっ、私がでますね!」
先程まで駄々をこねていた少女はウキウキと楽しそうに玄関を出る。
「宅配ですね。待ってました! あっ、私白石ですよ! し・ら・い・し!」
いや、それ俺の苗字なんだけど。それにあんまり宅配の人困らせないであげて!? めっちゃ困ってるよ!?
「はーい! ありがとうございましたー!」
元気よく宅配の人から荷物を受け取った少女。そういえば俺宅配されるものなんてあったっけな?
少し興味が湧いた俺はスッと宮坂が持っていた荷物を覗き込む。
宮坂は首を傾げて「どうしたんですか?」と言った後、何かに気づいた仕草を見せてドヤ顔を向けた。
「これ、私の荷物です!」
「へ?」
自分でも思うほど間抜けな声が出てしまったと思う。だけど仕方ない。だって、意味のわからないことを目の前の少女は言ったのだから。
「私の荷物って?」
「え? そりゃあ、雨宿りをするために必要な生活用品とかですよ」
何を言っているんだと言わんばかりに首を傾げられた。って、それ俺悪くないよな!?
「え、なんで?」
「いやぁ、これも神のご意志ですね!」
「お前そんな信仰心なかっただろ! そしてそれは依頼主のご意志だよ!」
「えー、いいじゃないですかー。私の中では雨降ってるんですし」
「だからその謎理論は何だよ!」
もう、それは雨宿りの度を越してるわ! 図々しいにもほどがあるだろ!
はぁ、こんな出来事他のやつが知ったら血祭りになるぞ。
「男と二人っきりで一つ屋根の下は流石に危ないと思うぞ」
「むぅ、それでもいいんです! 先輩だけはいいんです!」
おい、それでいいのか。我が校屈指の美少女よ。もっと危機感を覚えた方がいいぞ。
「べっ、別に、先輩になら何されてもいいですし……」
「誰がするかよ」
近くにあった雑誌をクルクルと丸めて宮坂の頭をポンと殴る。宮坂は殴られた場所を両手で押さえながらそっぽを向いた。
「そーですか、そーですか。どーーせ、先輩は後輩の私なんか眼中に無いですもんね。熟女好きですもんね」
おい、待て。そこまでとは言っていない。確かに年上はいいと思うがそれはあくまで三つ上ぐらいまでが限界だ。勘違いしてくれるなよ後輩よ。
それに、俺が今好きなのは年下の……。
それは置いといて、とりあえず反論をしておく。
「俺は別に熟女が好きなんて言った覚えないんだが!?」
「あーあー、みんなに言いふらしちゃおうかなー。熟女好きの先輩に部屋に連れ込まれたって」
「は!? おい! その言葉訂正箇所しかないぞ!」
「でも、みんなどっちを信じますかね?」
小悪魔のようなニヤけ顔で詰め寄られる。
おい、やめろ。あー、くそ、何だよ。可愛い良い匂いがする……じゃなくて何て卑劣な手を!
「分かったなら良いんです! それと明日まで私を雨宿りさせてくださいね!」
「好きにしろよ」
「あはは、先輩甘すぎですよ〜。このこの〜」
そう言って俺の頬を人差し指で突く小悪魔な後輩。その姿がとても愛おしくてにやけてしまう。
そしてーー
「甘いのはお前にだけだよ」
「っ!!!????」
突然の俺の言葉に顔を赤くした少女はその表情を見られまいと俺の胸に額を押し付けた。
「私だって、先輩の前でしか雨降らないんですから」
今日、誰が何と言おうが雨は降っていない。むしろ快晴だ。
しかし、どうしてだろうーー本当に雨が降っているんじゃないかと思えるのは。
三日前の宮坂の様子。
千香「雨降れー、雨降れー」
母 「千香? どうしたの、そんなに天気予報と睨めっこして」
千香「私は今回ほど天気予報を恨んだことはないよ」
母 「どうしたの?」
千香「今日から三日間雨降らないんだって」
母 「雨? あっ、そういうこと。うふふ、頑張ってね」
千香「な、なんのこと!? お母さん!」
※雨が降らないと気づいた千香はアパートの前で水を被った。
面白かった!良かった!まぁ、ちょっとは目にかけてやるよという方!ぜひ、ブクマとポイントをよろしくお願いします!
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