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劇場の外側の話はしましたけども、中の話をしておきましょうか。
扉を開けて、天井を見上げるとシャンデリアがドン、右手と左手に螺旋階段。
正面に1階の客席扉。客席は、5階まであって、舞台を円形に取り囲んでいる。
ちなみに、オペラやクラシックコンサートだけでなく、帝都の皇族主催の
帝都舞踏会を毎年やっているんだけど。
その話はまた今度させてもらうとして。
今日は、落語家「寿限無亭長介」こと俺、赤西与太の初舞台の話ですので。
「のりゆき」さんやマリーちゃんの兄の三太夫さんと別れて、
マリーちゃんと劇場内に入っていってということになったんだけど。
「師匠、そっちじゃないですよ。」
客席に直進する俺を慌てて止めるマリーちゃん。
「え、どこ行くんだっけ?」
「私たちは、楽屋です。こっちこっち。」
そういって、マリーちゃんが指さしたのは、壁。
「壁だよね?」
「お気になさらず。」
マリーちゃんが不意に俺の背中を強めに押す。
壁に叩きつけられると思ったら・・・
「あれ、ここは?」
急に寄席の楽屋然とした畳に木の机と座布団の置かれた部屋に戸惑っていると
「ここが、楽屋です。」
と遅れてやってきたマリーちゃん。
「師匠、挨拶しないと。」
て、誰に?
「見た感じ、俺たちしかいないような・・」
「ここにいるよ!」
といって、楽屋の机の下から顔を覗かせるヤシの木カット
の蝶ネクタイのおっさん。
「うわぁ。」
思わず、驚く俺。平然としているマリーちゃん、気づいていたなら言ってくれ。
「へへへ。何か問題ありますかね?」
何ておどけてニコニコしているおっさん。
問題あるよ、心臓止まったかと思ったわ。
「ピロリさん、うちの師匠がお世話になります。」
深々と頭を下げるマリーちゃん。頭を下げるときに耳もぴょこんと折り曲がる。
凄いな、その耳。しかし、ピロリって・・道理でこいつと話していると胃が
痛むような。
「話は聞いてるよ。あんたみたいな、カワイイお嬢ちゃんに頼まれたら断れねぇな。」
で、何なのこの人。
「お前さんの指南役って感じだよ。」
そういって笑うピロリ。
他愛もない話をしていると、出囃子の代わりに鳴るクラシック音楽。
「トランペット吹きの休日」って、要は運動会の徒競走でかかるやつ。
「あたしの出番だ。脇で見てみるかい?」
商売道具のギターをもって、手招きするピロリと一緒に舞台の方へ
向かって歩いてく、俺とマリーちゃん。
「異空間ってやつなんだってさ、この楽屋。」
「異空間?」
どういうこと?元々異世界だけど・・
「猫型ロボットの四次元ポケットの中みたいなもんだな。
で、道具の代わりに俺たちみたいな演者が飛び出てくる。」
あぁ、キャストとかいっちゃうのね。
猫っていうより、ネズミの方じゃん。
暗い通路にまぶしい光が一筋続いていて、だんだんまぶしくなっていく。
そして、通路を通り抜けるとそこは、もう舞台だった。