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異世界演芸場へようこそ  作者: 日向 晃
浜野矩随(はまののりゆき)
5/21

(3)

「お兄ちゃん?」


正直戸惑ったわけです。

 ん?マリーちゃんに兄?。


「この度は、妹が助けていただき、ありがとうございました。」


 黒い縦長の帽子を取り、一礼するお兄さん。赤い西洋軍服だが、腰に差しているのは、日本刀。


「西洋軍服に日本刀。珍しい取り合わせですね。」


 不思議そうに尋ねてみると


「ああ、最近有名な刀の名工がいて。あまりに出来が良いので、買い求めてしまいました。」


 へぇ、刀の名工なんて人もいるのか。


「申し遅れました、マリーの兄で三太夫です。」


いかにも軍人といった礼儀正しい態度だが、マリーちゃんのお兄さんの名前が

三太夫とはこれいかに・・


「私たち、同じ家で飼われてたんですよ、前の世界では。血のつながりはないですけど。」


なるほどね。前世の記憶が割とみんなあるのか。そして、兄といっても、

韓国ドラマで実の兄でなくても年の近い幼馴染のお兄ちゃんを

「オッパー(=お兄ちゃん)」とか呼び掛けてるみたいなもんなのね。

いや、ちょっと違うかななんて考えてると。


「師匠、噂をすれば、その刀の名工のハマノさんがいらっしゃいましたよ。」


ん?ハマノさん?そういわれて振り返ると、街並みとのギャップを感じるいかにも

江戸の職人といった風体の男が立っていた。


「ハマノさんとおっしゃるんですか。この世界で刀を打たれている方もいるんですね。」


社交辞令といった感じで話しかける俺。


「あなたは、落語家さんですか?」


「えぇ、といってもこれから始めて高座に上がるんですけども。」


「それは、楽しみだ。」


「楽しみ?」


「これから見させてもらいますよ。」


どうやらハマノと名乗るその男は、劇場の客らしい。


「失礼ですが、ハマノさんは、前世では何を?」


恐る恐る聞いてみる、まさか・・


「腰元彫りの職人をしておりました。こちらでは、刀の方を作っておりますが。」


刀の装飾品を作るほうから、刀そのものを作るほうに変わったわけか。


「失礼ですけど、もしかして「はまののりゆき」さん?」


「そうです。」


「あの話は本当なんですか?」


「あの話?」


「不眠不休で仏を彫り続けたら、名人だったお父様をもしのぐ腕前になったっていう。」


「ああ、その話ですか。」


懐かしそうな顔をした「のりゆき」さん。


「もしかして「チート」だったんじゃないかって思ってます?」


こちらが思っていることを先に言うと


「むしろ、あの時、仏を彫る前までが「チート」だったんだと思ってるんです。」


「といいますと?」


「甘えていたんですね、誰も相手にしてくれないといっても若狭屋さんのように

 父の子だからということだけで、良くしてくれる方もいたし。

 それに、父がすごいだけで、自分は悪くないと逃げてた。

 それが「ズルい」ことだったと思うんです。」


そういって思い出し笑いをする「のりゆき」さん。


「あるんですか、チート能力。」


逆に「のりゆき」さんが俺に尋ねる。


「はい、もらいました。」


「でもね、能力をもらったって、それを生かすも殺すも自分次第なんだと思うんです。

 まぁ、偉そうにいったけど、私もあの時仏様からもらったんだけどね。能力。」


「結局、もらったんかい!」


突っ込もうとも思ったけれど

優しい笑みを浮かべながら、「のりゆき」さんは俺に語り掛けて

くれていたのでやめておいた。


「あの時気づいたんです。

人間本気になれば、目の前のこと以外はどうでも良くなるのだと。

あの仏を彫っているとき、はじめて父と比べることなく自分の彫りたいものが彫れた。

だから、力を授かれたと思っています。」


自分の彫りたいもの・・

じゃあ、俺は、自分が話したいように話せばよいのかな。


「頑張ってくださいね。」


そういって、「のりゆき」さんは、俺の肩を軽くポンと叩くと劇場の中に入っていた。

俺は、少し肩の荷が下りた気がした。


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