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異世界演芸場へようこそ  作者: 日向 晃
死ぬなら今
2/21

(2)

死ぬなら今という古典落語がある。


どういう話かというと、散々あくどいことをして金をため込んだケチべえさんという

商人が死ぬ間際になって、このままだと地獄に落ちるからと極楽に行きたいが為に

地獄の閻魔に賄賂を渡して、極楽に行かせてもらう話だ。


ただ、この話をこっちの世界で話してみたら、本当に閻魔大王は実在しているようで

あの野郎道理で最近羽振りがいいんだなんてことをミノタウロスのおっさんたちが

しゃべっていた。


この話、もしかして実話なのかなんて思ったけれども、噺の中では、贈賄の罪で

天国から来た奉行所の役人につかまって、地獄は誰もいなくなったから

死ぬのは今ですよというオチなのだが、このオチを喋ったら、天国に奉行所なんて

ないよとツッコまれたから、閻魔大王も贈収賄の前科はないのだろう。


話が横道にそれたが、実は、この世界に来た日に俺は閻魔大王に会っている。

あれ、さっきミノタウロスのおっさんがしゃべっているからいるだろうって

言わなかったかと思ったあなた。


一応、俺もこっちの世界じゃ、芸人やっているんです。

多少の嘘はつきますよ。


でもね、これから話すのは嘘じゃない。


まぎれもなく本当の話。


で、なんで閻魔大王と会ったのかって?


わかるでしょう?死んだんですよ。


異世界転生なんて、大概、主人公が死ぬから始まるんです。


で、どうやって死んだの?通り魔に刺されるの?

残念不正解。じゃあ、車にでもはねられた。

正解。しかも、これが、間抜けなんです。

割と誰かを助けて、代わりに死んじゃったなんてのが多いよね。


でもね、俺の場合、助けたの人じゃないの。猫。白猫1匹助けて死んじゃった。


「あらエライ。むしろ、人間なんか助けるよりいいじゃない?」


って猫好きのそこのあなた。

本当に助けられてたらね。


でも、実際はというと。


トラック走ってくる→白猫トラックの前をさっと横切る(無事通り過ぎてる)

→白猫轢かれると勘違いした俺、飛び込む→昇天


というわけなんです。ね、間抜けでしょう?


ただね、この白猫がとってもいい子だったわけ。


「お前は、死んだが命をやるといっている。」


あ、これは閻魔大王ね。


死んで気が付いたら、緑の芝生に寝そべっているところで目が覚めたんだけど。

で、なぜか着物を着て、扇子と手ぬぐいもっているという。

そしたら、真っ赤な顔した怖い顔のおっさんがのぞき込んでるわけ。

で、第1声がこれだもの。ホントビビった。


「えっ?どういうこと?」


思わず声裏返りながら、閻魔大王に恐る恐る話しかけたらさ・・


「助けようとしただろう、白猫を。」


っていうの。あんまりデカい声だから、悪いことしてないのに


「はい!!」


って無駄に良い返事したりなんかして。

そしたら


「師匠、ありがとうございました!」


急にかわいい声がして、誰だと思って振り返ったら

猫耳に真っ白い肌をしたメイド服の女の子が立ってたわけです。


「君は誰?」

っていうと・・


「助けていただきありがとうございました、私、あの猫です。」


なんていうのよ。


「マリーっていいます。これから師匠の身の回りのお世話などさせていただきます。」


冥土だけにメイド服ってことじゃないんだろうけど、死んでからだけど

こんかキレイなお嬢さんに優しくされてうれしいなぁなんて思っていたら


「命をもらったというてるじゃろうが!」


と無駄に切れる閻魔。


「でも、死んだと思うだけど。思いっきりはねられたし。」


そう言うと


「そこにいるマリーが命をくれたといっておる。」


と訳の分からないことをいう。


「私たち、猫は9つの命があるんです。だから、命を一つ差し上げて

 師匠に恩返しするためにこの世界までお供しました。」


とマリーはにっこり笑ってそう説明する。やっぱりかわいい。


「そうそう、で、さっそく初舞台なんですよ!」


そういって俺の手を引っ張るマリー。


「急がないと。師匠、行きますよ。」


そういって、有無を言わさず引っ張られていったのがすべての始まりだったわけです。


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