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それで、このヒナ様。まぁ、妖艶という言葉が似あうんだけど。
まぁ、本当に無茶苦茶な人で。ホント、ワガママ。
見た目は、人魚という表現が正しいと思うが、実際、それを本人は結構嫌がる。
何故かというと「わらわは、神じゃ。」というのがその理由。
「人魚と神を同列に並べるやつがあるか」とかいうんだから。
このソシエテ島土着の女神様ということで、青く澄んだ海、湖水、そして島の大地
すべてが彼女の縄張りということなんだそうで。
で、元フィアンセのトゥナさんも元々は、彼女の従者の妖精なので
どんなにひどい目にあわされても逆らえなかったりするみたいで・・
もっとも、のんびりしたトゥナさんは、ひどい目にあってる感覚も薄そうだけれど。
「素人ウナギ」で出しているウナギは、この島で「製造」しているのだが
いわばこの島は、「工場」という表現の方が近くて。
(といっても、見た目は湖から捕まえてきてるようにしか見えないけれど。)
生きているものを殺して食べるということではなく、トゥナさんの妖精の粉から
「ウナギ」を製造している、つまり食べるためだけの魂のない肉を作るとかって
いう理屈らしい。
で、前置きが長くなったけれど、「製造した」分から「年貢」を納めなさい
ということで、ヒナ様にウナギを差し上げているのだけれど・・
この間までは、気に入って食べてたらしいんだけど、
「ウナギがヌルヌルするのが、我慢ならん。
ヌルヌルしないウナギを作るのじゃ!」
という無茶ぶりを突然言い出したので、いろいろと実験をしていたら
トゥナさん自身も気づけば夢中になっていて、時間を忘れてたとそんな顛末。
「食べるときには、ぬめり取って焼くんだから、関係ないんじゃ?」
と試しに聞いてみたが・・・
(実際、味は不満ないっていうんだけど・・)
「ヌメっている姿が気色悪いのが、我慢ならん。」
とかいって、引き下がらず・・・
で、ヌメリをとったウナギに改良して、それをかば焼きにして食べさせると
「マズいから、やり直し!」
といって無限ループしているらしい。
で、延々とトゥナさん、ヌメリのバランスを調整しているんだけれど
言い出したヒナ様は、飽き始めていて、
「お主らは、ネコだな、モフモフさせい!」
といって、セクハラおやじのごとく、マリーちゃんと三太夫さんの肉球
を触りまくり、耳を撫でまわし、尻尾をさわさわするという始末。
だいぶ嫌がられてるんだけど、お構いなしで暴走。
まぁ、タチが悪い・・
で、挙句にターゲットが俺に移ってきて・・・
「芸人なら、なんかやれ。」
と無茶ぶり。
仕方ないなぁと、自分に言われたと思ったピロリが歌おうとすると
「歌は飽きた。そっちの着物着たものがやってみせい。」
とそんなこととなり・・・
月明りの湖畔で、一席噺をやることになったわけです。