(3)
「ウナギができない?一体どうしたの?」
残念そうに聞くピロリ。
「今朝からソシエテ島に行ったきり、主人が戻ってこないもんで・・」
申し訳なさそうなおかみさん。
「ご主人が帰ってってこないの?確かに、毎朝島まで行ってウナギ
取ってきてるとはいってたけど、戻ってこないっていうのは心配だねぇ。」
事情にずいぶんと明るいピロリ。本当に常連客なんだなぁ。
そんなやり取りをしていると奥から小さな子供が、
生ビールと枝豆を持って運んできた。
「はい、生ビールとお通しの枝豆です。」
ニコリと笑いながら、手際よくビールと枝豆を配っていく。
「エライねぇ。サラちゃん。今日もお手伝いかい?」
孫にでも話しかける調子のピロリ。
「おじさん、子供扱いしないでくれる?」
ふんっと鼻息が聞こえそうな感じで、ツンとした感じの返事をするサラちゃん。
おかみさんは、黒髪なのに、この子はキレイな金髪だ。
「おかみさん、この寿限無亭長介って師匠もね、転生してきた口なんだよ。」
そう言って俺を紹介するピロリ。
「あら、あなたも。」
同郷の人にばったり出会ったような反応を返してきてくれる。
この人も転生してきた住人のようだ。
そりゃ、そうか。「異世界横丁」っていってるんだから。
「心配ですねぇ、ご主人。」
「えぇ。」
そんな会話をしているところに、サラちゃんが
「注ぎたてのビールの泡が消えちゃうから、さっさと乾杯してくれない?」
なんていうから、まずは皆で乾杯。
美味い。一日の疲れが吹き飛ぶ爽快なのどごし。枝豆がまたビールとよく合う。
「申し訳ないんですけどねぇ。ウナギ屋なもんで、ウナギがないと出せるものが
飲み物と枝豆ときゅうりの浅漬けくらいしかないもんで。
お代はいりませんからゆっくりしていってください。」
「ママ、やっぱり無理だよ。ウナギなしじゃ、商売にならないでしょ。
あたし、のれん下げてくるね。」
どうやらすごく間の悪いところに来店してしまったようだ。
結局、ウナギがなくては、営業にならないというから、
ごゆっくりともいかず、ビールと枝豆だけいただいて俺たちは、店を出てきていた。
おかみさんが、お代はよいと言うのをそういうわけにはいかないとピロリが
言いくるめて、支払いをすませて出てきたわけなんだけれど・・・
「心配ですねぇ、ご主人。」
マリーちゃんが心配そうな顔でつぶやく。
「よし、島まで行ってみるか。」
ピロリがボソリとつぶやく。
「ご主人探しに行ったほうがよいかもしれませんね。お供しますよ。」
と三太夫さん。皆、人がいいというか、なんというか・・
「どうやって行くんです?そこまで。」
流れ的に行かざるを得なそうなので、とりあえず調子を合わせておく俺。
「そこにあるから。」
とピロリ。指さした先は、店の裏手。裏手に回ると魔法陣らしきものが描かれていた。
「魔法陣で、いけるんですか?」
「ご主人が移動魔法のポイントを設定しているんだ。」
ゲームでいう、旅の祠みたいなもんだろうか。
魔法陣の上で、手を二つ叩き、手を合わせて頭を下げると体がふわっと浮いて
空に向かって一気に飛び上がっていった。