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「毎度、バカバカしいお噺でご機嫌を伺います。」
そう話始めると、力自慢のオークが「師匠、待ってました」と声をかける。
金髪で青い目をした貴族のご婦人方は、ドレスで着飾り、俺の話に耳を傾けている。
今日も帝都の劇場は、お客で一杯だ。
元々歌劇場として作られているこの建物で、落語をかけるという違和感。
元々、ここはオペラやらクラシック音楽やらを楽しみにした貴族の客しかいなかったのだが。最近では、客層が多種多様だ。
特に増えたのが、獣人達だ。
ケンタウロスの先生方や、人魚のお嬢様方は可愛いほうで、満月の夜だというのに来てしまって周りをざわつかせた狼男もいれば、地獄の仕事をさぼってやってきたミノタウロス
がいたり・・そんな有様だ。
ちなみに、俺は落語のプロでもなんでもない。
ただの落語好きの浪人生、赤西与太19歳。彼女いない歴=年齢の男だ。
転生前の世界では、落語好きというと渋いなんていわれていたこの芸が
なぜかこの異世界では好評だ。
「ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、あたくしこの世のものではございません。」
お決まりの枕を喋る。そう、転生してこの世界にやってきた俺は、「この世」のものでは
ないのである。
「かといって、ゾンビの皆さんのように血が通っていないわけでもございません。」
軽くウケる客席。
どういうわけだか、ゾンビいじりは、良くウケるのだ。
寄席の色物、俺がいた世界では、紙切りだの、漫才なんかをやる代わりにこちらでは
ゾンビの芸人が自虐ネタを披露して良く笑いをとっているくらいだ。
「あたくし、異世界からやってまいりました寿限無亭長介と申します。
名前が長いので、短くして寿限無亭長介と名乗っておりますが、本当の名は・・」
といって、古典落語の「じゅげむ」を元にして
「じゅげむじゅげむごこうのすりきれかいじゃりすいぎょ・・・」とやり始めると
これまた爆笑が起きた。
以前にこの話をしたときには、あとから楽屋に私も名前が長くて苦労してますと
やってきた貴族の方がいて、北欧神話の神様の名前を並べ立てたような
「ブリュンヒルド・グン・ゲイルスケルグ・ウル・アンドフレームニル13世」
なんて方が訪ねてきてくれたりもしたが、どうもこちらでは、あるあるネタのような
感じで受けるネタのようだ。
「えぇ、本日はあたくしがこの世界にやってきたときのお噺をさせていただこうと
思います。」
一応、今日は新作だ。
まぁ、新作というか、体験談を話しているだけな気もするが。
そんなわけで、まずはどうして俺がこの世界にやってきたのかを話をさせてもらおう
と思う。読者の方々もちょいとお付き合い願いたい。