表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/9

第二話


「で、落ちついたか?」

「は、はい。大声上げてごめんなさい……」


 レオナルドはあれから、死体が転がる食卓を出て、自分の部屋へと移動した。

 幸い自分の部屋には使用人ひとりいなかったらしく、普段と何ら変わらない、平和な自室が残っていた。

 物の位置。部屋の空気。どこをとっても慣れ親しんだその景色に、ようやく肩の力が抜けていく。

 レオナルドはベッドに腰かけて、改めて暗殺者をちらりと見た。


「なんだ、まだ何か言いたげな顔だな。そんなに性別が重要か?」

「いや、そういうわけじゃないんですけど……」


 いや、そういうわけではあるんですけど……。

 長い金色の髪に赤い目。髪は彼女が動くたび、サラサラと揺れて曲線を描く。きりりと上がる大きな瞳は、決してきつ過ぎず、大人っぽくも幼さを残し、少女らしさを演出する。

 どこからどう見ても女性。推定、十七歳くらいといったところだろうか。年齢はさほど遠くないが、低身長のレオナルドと比べると、目の前の女性はそれなりに高い。

 腰かけるレオナルドを見下ろして、不快そうに顔を歪めている。


 ――自分の屋敷の人間を、皆殺しにした奴がこんな普通の女の子なんて、そりゃあ拍子抜けもするでしょう。


 レオナルドは一つ咳払いをして、気持ちを切り替えて少女を見る。


「あなたの名前って、聞いてもいいんですか?」

「フェリシアだ。呼び捨てでいい」


 案外すんなり言うんだな、と思ったものの、口には出さず頷いて、


「わかりました。じゃあ、フェリシア。僕のことは――と、今まで通り、レオナルドじゃまずいかな」


 あくまでも自分はさっきまで、暗殺される身だったのだ。

 これから生き延びるとするならば、身元が判明するような名前は避けた方がいいだろう。

 レオナルドはふむと腕を組んでから、一考する。


「僕のことは、レオって呼んでください」

「わかった。ところで、お前はこれからどうする気だ?」

「えぇっと、もしかして僕、改名する意味なかったですかね……?」


 首を傾げるフェリシアに、レオナルド――レオは小さく苦笑した。


「まぁ、いいです。その、一応確認なんですけど、フェリシアは元の依頼主が誰なのか、もちろん知ってるんですよね?」

「うむ」


 当然だ、と言うように、フェリシアがしっかりとうなずいた。

 と、いうことはだ。もちろん顔も知ってるし、どこにいるかもわかっている。復讐を目的とするならば、一番の近道は彼女だろう。

 ――でも、


「これは僕の復讐だから、フェリシアはあくまで、サポートをお願いできますか?」

「ほう、サポートか。答えを聞けばいいものを、面倒なことをするんだな?」

「これはあくまで、僕自身の復讐なので。僕がやらなきゃ意味がないんです」

「ふむ、一理あるな。……わかった、方針には従おう。口出しは最小限に抑える」

「理解が早くて助かります」


 思わず笑みを浮かべるレオに、フェリシアの眉がピクリと動く。

 じっと睨むように見つめてきて、レオはたじたじと目を泳がせた。


「お前、よくそんな風に笑えるな。家族を殺した当人が、私であると忘れたのか?」

「いや、もちろん覚えていますけど、それはそれというか……。フェリシアはあくまで、仕事をこなしただけなんだし、元をたどれば悪いのは、依頼してきた人だから。恨むのはお門違いなのかなって思って」

「……妙なガキだな」


 フェリシアの赤い瞳が、宙をさまよって揺れていた。

 レオは何か言うべきかと、言葉を捜すが見つからない。


「それで、犯人の目星はついているのか?」

「あ、一応、ですけど」


 淡々と話すフェリシアが、近くにあった椅子を引いた。すとんと軽く腰掛けて、ローブの下で足を組む。スラリと伸びた長い足は、革のブーツに包まれていた。

 どうやら、聞いてやるから話せ、と言いたい空気らしい。

 レオは向き合うフェリシアに対し、前のめりになって話し出す。


「まず、僕が犯人候補として考えてるのは、父と関係を持っていた、ランズマン家とユーン家です。どちらも裕福な貴族だし、お金に困ってはいないけど、ランズマン家は功績にこだわり、ユーン家は利益を独占しがちだ。三家の中でトップだった僕の家を、疎ましく思ってもおかしくない」


 特に、独占欲の強いユーン家は、父と仲が悪かった。

 父が持っていた土地や利益を、欲して殺してもおかしくない。


「ふむ。そこから先、どうやって犯人を絞り込む?」

「直感的になるけど、僕はユーン家が怪しいと思ってる。ランズマン家は功績にこだわってはいるけど、父とは友人関係にあったから……」

「なるほど。となると、不仲だったユーン家が、必然的に犯人か」


 背もたれに身体を預けながら、うでを組むフェリシア。

 ――どうやら、貴族同士の関係も、フェリシアは把握しているらしい。


「それで? 犯人がユーン家だとしたら、お前はこれからどう動く?」

「……一時的に、死んだことにしようと思う」

「一時的?」


 赤い目を細めながら、首をかしげたフェリシアに、レオは無言で頷いた。


「アルヴァレス家暗殺事件は、きっと何もしなくても大事件として取り上げられる。だから、世間に事件が広まるまで、息を潜めるつもりでいる」

「回りくどいな。なにがしたい?」

「一度死んだと思わせて、実は生きているとほのめかせるんだ」


 前のめりになったフェリシアの眉が、怪訝そうにしかめられる。


「わかりやすく説明しろ」

「えっと、その、今回フェリシアを雇った元の依頼主は、たぶん、皆殺しを希望したと思うんだ」

「……どうしてそう思う?」

「君が、無意味な殺害をする暗殺者に見えないから」

「――!」


 真っ直ぐ答えたレオの言葉に、フェリシアの瞳が見開かれる。

 だが、その表情もすぐに消え、


「自分が助かったから、美化しているんじゃないのか? 暗殺者なんて、金を積まれれば人を殺す、ろくでもない職業だぞ」

「そうだ。君は金をつまれない限り、無意味な殺しはしないはずだ」

「…………続けろ」


 無表情だったフェリシアの声に、わずかに棘が含まれる。心なしか、レオを見つめる瞳は蔑むようで、顔の角度が煽り気味だ。


 ――な、なんかまずいこと言ったかな。


 レオは内心ドキドキしながらも、「えっと」と話を繋いだ。


「だから、事件が知れ渡った後、『長男が実は生きている』という噂が流れれば、犯人はきっと、いや、必ず、生死を確認するはずだ」

「なるほど。噂につられてユーン家がやってくれば、狙い通りと言うわけか」


 納得したようなフェリシアに、レオはこくりと頷いた。


「ふむ。筋は確かに通っているな。子どもだと思って甘く見ていたが、案外やるじゃないか」

「あ、ありがとうございます――って言っても、四、五歳くらいしか変わらないと思うけど?」

「ふん。生意気なガキは好きじゃない」


 フェリシアはそれ以上、追求を許さないというように、フイと顔を背けてしまった。


「で、その策を採用するとして、私は何をしたらいい?」


 視線だけを向けて、わかりやすいくらい話題を変えてきた。

 だが、このままここで話していても、埒が明かないので乗っておこう。

 レオは腕を組みながら、「うーん」と小さくうなってみる。


「僕自身の死の偽装と、事件が広まった後、噂を広げてくれそうな人材の探索、かな」

「なんだ、そんなことか。死体なら簡単に探し出せるし、噂を広げてくれる人材にも、心当たりがなくはない」

「え、本当に?」


 思わず目を輝かせたレオに、フェリシアが初めて笑みを見せる。ニヤリと効果音がつきそうな、意地の悪い笑みだったが……。


「箱入りのお前からしたら、慣れない場所だと思うが?」

「へ、平気です。僕だって、覚悟なしに言ってるんじゃないから」

「ふん。なら案内してやる。が、騒いだり、迷子になったりしたらおいていくからな」


 ばさりとローブを脱いだフェリシアが、すくりと椅子から立ち上がる。


「着ておけ。多少変装にはなるだろう」

「わっ、あ、ありがとうございます」


 ふわりと香る、ローブからの甘い匂いが、レオの鼻をくすぐった。のだが、ソレと同時に香ってくる、真新しい鉄の臭いが混ざって、なんとも言えない心境だ。


 ――しかも、丈がすっごく余ってる……。


 これじゃあ社交界の令嬢のように、ドレスを引きずるみたいになる。


 ――あくまで、彼女の身長が高いから、と言っておこう。

 決してレオが小さいとか、年齢の割に低身長とか、そう言ったことが理由ではない。


「似合っているぞ」

「馬鹿にしてますよね……?」


 陽気に話す暗殺者の後ろを、レオはとことことついていった。

 ――家族たちが眠っている、食卓の扉は閉めたまま。

 レオはフェリシアとともに、自分の屋敷を後にした。


「って、案内してくれる場所ってここ!? ここ完全にスラムだよ!? 近寄っちゃダメな場所ナンバーワンだよ!?」

「暗殺者についてきて何言ってるんだ、お前?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ