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メイドBook  作者: やまは
ビオン王国防衛戦
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四章 16冊目 白色とりどり

 はっきり言って、普通じゃない。

 普通だとショウは思っていた。個性的なメイド達の中で、至って普通なのがロネイだと思っていた。だがそれは幻想。空想に過ぎなかった。


 ――――何を言ってるんだ、こいつは……。

 ふとロネイを見やるショウだが、彼女は相も変わらず普通だ。容姿端麗で、惚れ惚れするほど、清純を具現化した存在。髪の毛先から足の先端まで――頂上から麓まで真っ白。純白のメイドがそこにはいる。

 普通ではないのはその表情だろう。それだけは今、曇りがかった灰色と表現できよう――暗く淀んでいる。それもそのはずだ。何しろ、自分の性的嗜好を暴露したのだ。澄み渡る青空というわけにもいかない。


 はっきり言って、異常なやつだ。普通の観念ならそうであろう。隠しておくのが普通であろうに――ましてや、その前科もんであるのがまた異常さを増している。


「冗談……じゃなさそうだな」


「……はい。全て本音、本心です。軽蔑してもらって構いません」


 灰色ながらも、言葉の透明さは山の湧き水がごとく。

 この場面でわざわざ嘘を見繕って軽蔑を求めているのなら、さらに異常性が増す。むしろそちらのほうが軽蔑に値しよう。

 当然、そのままの意で受け取る。受け取らざるを得ない。受け取りたくはないが――。


 ショウには思い当たる節がいくつかある。その顕著な例が、リーエ救出作戦中の出来事であろうか。剣術の鍛練の怠りから、『本心』もとい『白い悪魔』が取った行動。この中で垣間見た残虐性と異常性。それらがロネイの『本心』から来ているものだと、今しがた理解した。


「つまりは何だ、その――ロネイは二人に別れてるってこと、だよな? すっげー今さらだけど、そう言うことだよな?」


「……そうなりますね」


 薄々気づいていたショウだが、改めて――面と向かってそう告げるロネイの表情は切ない。

 二重人格とはまた別の概念であろうか――『二心人格』。ある意味、新たな概念を生み出している人物だ。ただ、どちらもロネイなのは変わらない。彼女の心だけが別れている。それだけに、ますます異常をきたしている。


 ――――何だ、心が分裂するって……そもそも心って別れるもんか? 折れるなら分かるけど……増えたってことか? いやいや、それは違うだろ。本心だって言ってたし――。


「じゃあホワイトデビルはロネイ――ロネイはホワイトデビルってことで、これからもよろしくな」


 いくら考えたところで、行き着く先は結局、ロネイはロネイだということだ。たとえそんな性的嗜好の持ち主であったとしても、彼女は彼女であることに変わりはない。

 これ以外に答えがあるのだろうか――否、それはない。そんな事で崩壊する関係ではない。だがスッと、ショウの心の片隅に、ロネイの『本心』は仕舞われた。その棚はもう開けることはないと信じて――。


 あっさりとしたショウの回答に、ロネイはうつむく。


「こ、こんな私でもショウ様は受け入れてくれるのですか?」


「うーん。まぁ、はっきり言ってやだよ? 聞かされた俺の身になれよ。これからどうお前と向き合えばいいよ? 鍛練中も変な思考が混じることになるんだけど?」


 ただ愚直なショウの言葉が――グサッと、白に刺さったのは気のせいではない。


「……で、ではどうして」


「どうしてって言われてもなぁ――」


 頭を掻き、ショウは困惑の表情を浮かべたが、


「――だって、ロネイは俺のメイドだろ? それでいいんじゃないのか? 小難しく考えたって答えなんて出ないしさ、俺が受け入れればそれで済む話だろ? なら受け入れてやる。なんたって俺は、お前のご主人様だからな」


 馬鹿正直に真っ直ぐそう語ったショウ。

 受け入れるには時間が掛かるかもしれない。ただ、ロネイは『本心』を語ったのだ。こちらもそれで応えるのがセオリーだ。

 『一つには一つ』。それは、彼女自身の決まり文句のようなものだ。


「し、ショウ様……」


「それでお前が救われるのなら俺は、何でも受け入れてやる。何でもしてやる。何でも、何でも――何でも来いよ、ロネイ」


「……では、ショウ――」

「どわぁ!?」


 突如として足払いを受けて、そのまま倒れ込み――ザクッと、刀が地面にめり込む音がする。咄嗟の出来事に、ただただ「ひっ!?」と、情けない悲鳴と強ばる表情をショウは作り上げた。


「その声! その表情! もう、最高ですよ! ショウ!!」


 紅潮する頬。黄色い声を上げるロネイの色が、ショウへと伝わる。それが『白い悪魔』なのは言うまでもなく、


「はええわ! ――まぁ、お前がそれで満足ならいいけどさ……」


 ショウは諦めた。今はただ、なすがままに。そう約束したのだから。

 ロネイの色が、白に戻るその時まで――。


「サイコだな……なんて」


「面白くないよ?」


 ――グサリ。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 『白い悪魔』。それはロネイの闇でしかない。真っ暗闇の、黒。決して開いてはいけない。触れてはいけない。出してはならなかったのだ。その結果が今の、今までの有り様だ。


「……ったく。今はお前の欲求を満たしてる場合じゃないんだぞ!」


 倒れ込んだ際に生じた、土を払いながら注意を促す。また刺されたが、その箇所は既に応急処置済み。

 こんな下らない中でも、時は止まらず刻々と動いている。他のメイド達に追い付くのは、山頂であろう。


「は、はい。すみません、ショウ様」


 縮こまってロネイは陳謝した。先程までの『白い悪魔』はどこへやら――ギャップが天地している。

 現し身と心。白と黒。まるで正反対の二人だが、実際には一人。それを理解して、変態だということも分かった。


「話って言うのはそれで終わりか?」


「はい、そうです。次はショウ様の番です」


 ロネイの面立ちは元へと戻っていた。話してスッキリしたと見える。


「とりあえず歩きながらな。――お前がビオンの王女って本当なのか?」


「それは本当ですが、違います。ですから、半分はその認識で大丈夫です」


「ん? どういうことだ?」


「それ以上は……」


 言葉を濁すロネイに、「本当のことを教えてくれ」とショウは懇願した。


「その事で、今以上にショウ様に軽蔑される自信があります……私の過去を聞けばきっと……」


「それでも、俺は知る必要があるんだっ! 頼む、ロネイ」


 それでも諦めずに懇願を続けた。性的嗜好の暴露以上に、他に軽蔑する要素があるというのか。そんなことよりも、鍵は目の前にあるのだ。逃がしたくはない。


「……分かりました。そこまでショウ様が望むなら――」


 半ば強制的になってしまったのは否めない。だが、救うためには必要不可欠なのだ。

 王女であり王女でない。それが意味するものとは――。

 彼女がここまで頑なに拒む理由とは――。

 そして、ビオンの秘密とは――。


「――包み隠さず、はっきり言います。レイジュ島で起こったことを――私が何故ビオンの王女足り得ないのかを――そして、私と『白い悪魔』とがどうして別れたのかを――」


 ショウは固唾を飲み、ロネイは重い口を開いた。

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