表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メイドBook  作者: やまは
ビオン王国防衛戦
94/131

四章 14冊目 魔方角と違和感

 ショウはゆっくりとテントの中の床に腰を下ろした。二人のメイドと同じ、座する中に混じる。胡坐のショウ。正座のフィア。そして彼女に抱きつくリーエ。


「……真剣(まじめ)な話とは何ですか。早くしてください。お姉さまとの時間は有限なのです。貴重なのです。尊いのです。いくらご主人様といえど、その時を邪魔するのでしたら――」


 ――バチバチと、リーエの脅しの発言と共に、電撃が迸る。彼女の全身から――テント内の空気までもが、パルスを帯びている。眼光は鋭くなるが、それでもフィアを離そうとはしない。その時を一分一秒、隈無く取り入れるためにか――。


 リーエのそれは威嚇だ。敵意むき出しの獣の習性と同じ。それで去ればよし。去らないのであれば、今度は力で示す。それだけに、フィアという人物が彼女にとってどれだけの者であるかは、既に周知の事実。

 だが、ショウはそれに怯まない。獣と違う点は一つ。それは――、


「脅したって無駄だぞリーエ。今日はそれ以上に、お前らに聞きたいことがあるんでな」


 ――意思疏通のための話し合い。それこそが人であるか、獣であるかの違いだ。

 ショウは真剣な表情を崩さず、その場の電撃にさえ一切動揺しない。何故なら彼は、リーエのその習性にも慣れてしまっているのだから――。


「リーエ様。『エス・ト』を使うのでしたら、私から離れていただきたいのですが……」


 呆れた声色を出すフィア。抱きつかれているがために、リーエの電撃は、彼女へともろに流れている。だがそれでも動じずに、冷静に状況を説明し、姿勢一つ崩しはしない。リーエの魔法ですら、フィアという牙城を崩せていない。

 ――――手加減しているのかもしれないが。


 『エス・ト』とは雷魔法の別称だ。炎、水、雷、風。それぞれが方角の頭文字から取る別称がある。『ノース』が炎。『イース』が水。『エス』が雷。『ウェス』が風だ。詠唱時に役に立つ。

 それに続く『ト』は下位の魔法だ。だが、リーエほどの使い手ならば、それさえも上位クラスへと変貌する。ショウの『エス・ト』は手から電撃を放てるくらいのものだ。だから今、その差というのをまざまざと見せつけられていることになる。


「も、申し訳ありません、お姉さま。だ、大丈夫でしょうか? 今、回復魔法を……」


「私のことはよいのです。それよりもまずは、ご主人様の問題が先決。それにお忘れですか? 私たちの身に付けているこのかめの紋章には、魔法を軽減させる効果が備わっていることを――」


 心配するリーエをいなし、どさくさ紛れて包容を解く。そしてフィアは胸のかめの紋章を指差してそう語った。

 リーエはそれに、思い出したかのような表情を作ったが、


「おいっ! そういうことは早く言えよ。初耳だぞ、こっちは」


 ショウは驚嘆した。

 ――――またか。

 と、隠匿する必要のない事柄に、本題そっちのけで追及を図った。身に付けている服――もといかめの紋章が、そのような効果があったとは夢にも思わなかった。「申し訳ありません、ご主人様」と、フィアは頭を下げて謝った。


 ――――だから反応が遅れたのだ。

 そう――それは、一種の好奇心というやつだった。本当かどうかを確かめたかった。かめの紋章の効果というものを――。

 誘われるようにショウは、宙のパルス(エス・ト)へと手を伸ばし、触れようとした――その時だった。


「だ、駄目ですご主人様!!」

「――えっ……」


 フィアの呼び掛けも空しく、ショウはそれに触れた。その時――手が猛烈な勢いに圧されて、弾き飛ばされた。その勢いは止まることを知らず、彼の体をも吹き飛ばした。強烈な一撃が炸裂したのだ。


「……いってぇ。どこが……軽減してる、だよ。もう、めちゃくちゃだぁ」


 背中から叩きつけられ、頭も強打。打撲以上に、全身麻痺で体が動かない。そんな中で触れた手の感覚がない。そこ見るのが怖いくらいに、動きはしない。


「はぁ……バカですか、ご主人様」


 そんなショウを覗き込むように、蔑みの黄色いメイドが見つめてくる。


「軽減するのはあくまでも服。生身で触れても何の意味もございませんよ? それに雷魔法は触れること事態、危険なのです。雷に直接触れますか? 触れませんよね? それと同じです。次からは服からにしましょうね、情けないご主人様」


「長々と説明どうも……お前にバカって言われると、すげぇ腹立つな……」


「バカにつける薬はないと言いますからね。身をもって体験することで、警戒心というものが生まれるのです。――はっきり言いまして、私の『エス・ト』に油断してましたよね? もっと自分の身を案じた方がよろしいかと」


「……その言葉そっくり返すわ。――後ろ見てみろ」


「えっ?」


 リーエは振り返ると、「はわぁ!?」と情けない声と共に、捕らえられ、外へと引きずられていった。


「お、おおお、お姉さま!? お、お許しを……ぎゃあぁぁぁ!!」

「ご主人様に何てことをするのですか! 一歩間違えれば、大変な事態に――」

「――て、手加減はしています。まさか自ら、食らいに来るとは――」

「問答無用! 言い訳は聞きたくありません!」

「お、お助けを、はぅ……」


 閃光のようにそれは終わった。お仕置き。または説教というやつか。あの時、リーエが懇願してきた理由も、その全貌が見えないショウでさえそれは頷けた。

 ――――バカだな……あいつも。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ――――違和感であった。

 そのふたを開けてみると、ショウとメイド達(フィアとリーエ)との温度差はかなり浮き彫りになっている。現状、ノロとロネイは第三者である。

 ノロはどんな時でも肩入れはしない。それでも、味方であるのは変わらない。

 ロネイは――当事者だ。


 ショウが抱いた違和感は二つある。

 まず一つ目の違和感。それは『ヤムルアを救う』ことについてだ。


「お前たちの救う気ないだろ」


 回復魔法により改めて、向かい合うショウとメイド達。流石のリーエもここは正座である。


「あるのかないかとおっしゃるのでしたら、あります」


「私もお姉さまと同じです」


「……俺にはそう見えないんだよ」


 フィアとリーエから、嘘はないと分かる。それだけに、ショウにとっての『違和感』は計り知れない。


「どうしてでしょうか?」


「緊張感がないのはお前達の特徴だからそこはいい。だけどなぁ、今も普通の日常を過ごしてるってことはだぞ? 何か考えがあるってこと、だよな?」


 ショウは二人の考えについて迫る。詰め寄るような言葉に、逃げ道を塞ぐ。

 はっきり言ってショウの考えは無いに等しい。まず、ビオン王がどういう人物なのか皆目検討もついていない。そこが一番の壁になっているが事実。


「ありますけど……それでご主人様が安心してしまうのが怖いのです。ビオン王のこともそうですが、ご主人様はすぐに信じてしまう癖があります。ですから、断定させないためにも、今はお答えを差し控えさせていただきたく存じます」


「はっきりと言いますが、私達もどちらに転ぶか分かりかねているのです。ですから、考えることは止めないでいただきたい。それが最もヤムルア様を救う手立てとなるはずです」


「……分かった。それじゃあ二つ目だ」


 それ以上、メイド達は答えてくれそうになかった。二人共々、それなりの考えがあるために――だからショウは二人を信じて、改めて救う手立ての模索を始めると、決めた。


「……? 二つ目?」


 ショウの言葉の違和感にリーエは疑問符を投げる――が、ショウはこれを無視。フィアは彼の心を読めるために、それに対しては特に気にした様子は見えない。


 二つ目の違和感。それはロネイのことだ。

 ロネイがビオンの王女。はっきり言えば、彼女が王と対峙する。頼む。それだけで丸く治まる。だが、それは出来ない。何故ならそれは、彼女の秘密であるから。その事はショウも既に答えを出していた。

 ――――その作戦は無し。

 と。


「ロネイがビオンの王女だって、お前らは知ってたのか?」


「「はい」」


 二人は言葉を重ね合わせてイエスと答えた。師匠と友だ。知っていても何ら不思議ではない。


「ヤムルアは何で知っている?」


 ショウの問いに、二人は言葉を詰まらせた。表情は曇り、顔はうつむいている。それだけに、ショウの中での『違和感』の正体が見えてきた。


 二人が答えられないはずがないのだ。何故なら、ビオン王国の王女がロネイだとしても、それは何ら問題がないためだ。そこを隠蔽して何になる。何にもならない。そもそも彼女が王女だとすれば、シーラー国――三将の立場がおかしい。

 ――――『違和感』の正体はそこだ。

 つまり、ロネイが本当に王女なのか、という疑念が浮上する。そして、彼女とヤムルア。二人の接点が何かしらあるということ。となると、自然とヤムルアもビオンの関係者という新たな疑念が浮上する。


「ヤムルアがビオンと何か関係がある……そんなわけないよな?」


 嘘と本音を道家混じりに演じるが、フィアはびくともしない。ショウの魂胆が読めているためだ。表に出てくることはまずないだろう――だが、


「そ、そんなわけないじゃないですか。あはは」


 まんまとショウに踊らされたリーエがそうだと白状した。

 ――――バカで助かった……。

 リーエのためにいうが、彼女はバカではない。真面目な時は頭も切れるし、判断力も早い。ただ、フィアの存在がそれを殺している。自制できずに、溢れてくるのだろう――愛が。

 リーエはやればできる子なのだ。


 ビオンの秘密。それが二人を救う手立てと何かしらの糸が紡がれているということがこれではっきりした。


「……あとはロネイから聞くしかないか……答える気ないだろ?」


「はい……申し訳ありません、ご主人様」


「いいよ。邪魔して悪かったな」


「本当、邪魔です。早く行ってください」


 すかさずフィアへと抱きつくリーエ。


「……つか、ここ俺のテントだよな? 明日は早いし、もう寝ようかな~?」


「その方がよろしいかと。ヤムルア様もロネイ様も既にお休み中のはずです。……焦らなくても時間はあります」


「そうだよな。寝ればいい考えが浮かぶかもしれないしな」


「……チィ。――では、私が子守唄でも歌ってあげますよ。『キパーラ』、キパーラ……どうですか?」


「睡眠魔法で強制的に眠らせてどうするつもりだよ!」


「うるさいご主人様ですね。早く寝てください」


「……お前ら出てけよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ