四章 12冊目 秘密の開山
山麓を進む中での一幕。フィアの唐突な着せ替えタイムにより、また新たなメイドが増えた。
ヤムルア・リティエスメイドフォーム。
「どーお? ショウくん。似合ってるかな?」
ヤムルアは甘い声色でショウに感想を求めた。下から上まで、見事なまでの大幅な風貌の変化。そのために起こった一つの弊害。それは真珠のような彼女の白い肌が、覆い隠されてしまったことだろう。
もちろん似合ってはいるが、
「まるでコスプレだな」
率直な感想でショウはそう答えた。ふて腐れたように、頬を膨らませるヤムルアがそこにはいた。
強制メイドを目撃するのもこれで二度目だ。一度目はナナイ・スペクト。彼女は結果――メイドとして成長を遂げた。フィアがそうするということは、メイドとしての素質があるのだろう――だが現状それどころではない。メイドになることが優先ではない。救うことが優先なのだ。
「あのような格好は認められません! はしたなすぎます。このままではご主人様に悪い影響しか与えません!!」
フィアは声を強めて自分の主張を語った。その姿は怒り溢れてはいるが、冷静さは備わっている。
どうやら理由はそこらしい。ヤムルアの露出が気に食わないと見える。
「そ、そのようなことは……ただ、その……ご主人様にはまだ早いかと、思いましただけで……」
「まあまあ、いいじゃない。私は好きよ、この格好。――このかめちゃんもまたいいアクセントよね」
自分の姿を右に左に振ってはその姿に恍惚するヤムルア。目につくは胸元のかめの紋章。
――――あぁ、大きいですね。
それはとてもいいものである。隠されているが、その豊満な二つのものが、この場のどのメイドよりも目立って、左胸のかめを張り出していた。
――――――数時間後。
切り立ったレイジュ山の全貌。それは外からでは窺い知れなかった。山中へと足を踏み入れて、その異様な光景が目に止まる。
「そこらじゅう穴ぼこだらけだな……」
まるで何かを掘り出すために作られた穴が多数点在。それは剥き出しの土砂ではない。長い時が経ったのだろう――緑の繁殖により、自然色へと染められている。
明らかに人の手――生者の手が加えられた風化の様であった。掘り進められて――台地となった。削られて――崖になった。そうして段々と、剣山のような風貌へとなった。――否、それは成り果てたという方が正しいか。
起伏の激しい山道へと突入していた。
「平坦な道じゃないと、分かってはいたが……これはキツいな」
緩やかな斜面ではないために、足取りは緩やか。ショウとリーエの後に続くように、ロネイとノロ。ヤムルア。そしてフィアの順番だ。
「主人様の、人生の道ということか?」
「……お前に上手いことは求めてないぞ、ノロ。そういうのはロネイの仕事だろうが。――なぁ、ロネイ? ……ロネイ?」
ショウは振り返り、彼女の無反応ぶりに二度呼び掛けた。
「ロネイよ。主人様が呼んどるぞ」
「……!! は、はい。呼びました?」
遅れること数秒。それはノロの叩きもあってようやく反応を示した。そんなロネイに対して、
「何かあれば言えよロネイ。お前のことだから、色々と考えてくれてるとは思うけど……って、おーい」
心配するショウを他所に、テクテクとノロを抱えて登山を止めないロネイ。その背には何もない。純白のメイド服。その後ろ姿しかない。ただ確かに、『何か』を背負っている。そんな風にしか言い表せないが、ショウにはそう思えてならなかった。
「……ねぇ、ずっと思ってたことがあるんだけど、いい?」
ヤムルアは深刻な面持ちで、ショウ――そして合流したフィアにそう投げ掛けてきた。
「あぁ、別に構わないぞ。溜め込むより吐き出す。聞きたいことがあるならバンバン質問してくれ。――主にフィアが答えると思うがなっ」
「ことの程度にもよりますが、お答えいたしましょう」
「そう? じゃあ一つの聞くけど――」
そのヤムルアの問いかけに、ショウは答えられなかった。答えは単純――知らないから。
――――知っているつもりだった。
一人の生者を、ショウは曲がりなりにも知り得ているはずだった。だが、それは上っ面だけだということを思い知らされた。
「――ロネイちゃんってもしかしてだけど、ビオンの『王女様』……なんじゃない? 名前が同じってこれ、偶然?」
白が好きで、刀の名手。シーラー国、三将兼メイド。ギャグが得意? で、耳が良すぎる。ただ、一人で抱え込んでしまう癖がある。そんな『ロネイ』という生者のことを――。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――――フィアは多くは語らなかった。ただあの時確かに、「……そうです」と言いづらそうながらも、否定はしなかった。
酸素が薄く、空気が透き通り、冷たい風が吹き付ける。満点の星空を遮るものは何一つない。開けた中腹でショウ達はテントを広げた。
登山の行程は二日掛かり。朝一番に頂上へとアタック。その後、ビオン王国へと到着する算段である。
明日。明日には全てが決まってしまう。ヤムルアの算段が未だに無い。フィア達が言うには、最後の手段があるらしいが、それは使いたくないとのこと。それだけに、ショウは焚き火の前で思考を募らせる。
「……あぁ!! もうわっかんねぇ!」
頭をかきむしり、声を上げる。ヤムルアこととはまた別の問題――ロネイのことが浮上したのだ。
「あいつが、王女様……どういうことだよ」
そんな素振りなど一切無かった。ショウは王女という概念を知っている。そしてその者に会っている。それだけに、ロネイが王女ということが、未だ受け入れられない。
ひた隠しにしてきた秘密。そう呼ぶべきものであろう。リーエが『半妖』であることを隠してきたように、ロネイにも『王女』という身分を隠す理由があるのだ。迂闊には踏み込めない。二の足を踏むことになってしまう。リーエの時と同様――。
「……ただ、チャンスだろうが。ヤムルアを救うためには」
結果、上手くいったとして、ヤムルアを救えた。それで済めばいい。だが今度はロネイが堕ちてしまう可能性が高い。当たり前だ。秘密の箱を開けられ、勝手に中身を出されるのだ。不愉快だろう。
――――行けという自分がいる。
――――やめろという自分がいる。
「……俺が抱え込んでてどうするよ。違うだろ。あいつらはどう思ってんだか聞け」
ショウはその場から立ち上がると、フィアとリーエのテントへと歩みを進めた。
「リーエ様、お止めください」
「イヤです。海に落とされた罰を償ってください」
「そ、それはリーエ様が……ひゃぁ!?」
「おねぇしゃま~、ん~~」
「呑気か! お前らは!!」
聞こえてくるフィアの悲鳴とリーエの高揚感ある声。それに割って入るように、テントの入り口を捲りながらに声を荒らげる。
「ほらご覧なさい。ご主人様に怒られてしまったではないですか!」
「ん~~……邪魔ですよご主人様。魔力の鍛練は終わったはず、何用ですかっ」
「……真剣な話があるんだ。少し付き合ってくれ」
ショウの決意に、緩んでいたリーエも真剣さを取り戻した。




