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メイドBook  作者: やまは
たった四日間の出来事
9/131

9冊目 生者

 それは挨拶。シンプルだが礼儀としてとても大切な行為。

「は、はじめまして。俺……じゃなかった。私、ショウといいます。どうぞよろしく」

「あ、あぁ。<ケレス>だ」

 ショウは一目散にベンチから飛び出し、<ケレス>に挨拶をした。ショウから差しだされた手をケレスは戸惑いながらもその手を取った。

「おおっ!!同じ顔が三つ!!――よろしく!」

「よろしくねショウくん――<シン>だよ」

 次にショウが向かったのは<シン>のところ。ケレスと同じく手を差し出して挨拶をした。

「よろしく!」

「よろしく頼むショウ!――<トウ>だ」

「よろしく!」

「はわぁ~、と、年下!!よろしくお願いいたしますショウ様!!――<アツ>と申します」

 続けざまに<トウ>、<アツ>にも手を取って挨拶をした。

 手を上に下にして来たシン。ギューと力を込めてきたトウ。握って離さないアツ。

 なんとなくだがショウは個性というものを感じていた。見分けは全くついていなかったが。

「ちょっとご主人様!」

「わぁー、やめろって」

 挨拶が終わるや否や、ショウはフィアによってベンチの前に引っ張り戻された。

「申し訳ありませんでした。ショウ様がご迷惑を」

 フィアはケレス達に向かって謝りながら深々と頭を下げていた。

『なぁ、フィアの知り合いなんだろ?』

『いいえ、初対面です』

『あ、そうなの?』

 ひそひそ声でショウはフィアと会話をした。

 フィアの知り合いだとショウはそう思ってケレス達に挨拶したのだがどうやら違うらしい。それでもショウに後悔はなかった。人と話せた事が嬉しかったからだ。

 ショウには初対面でも相手に入り込む力がちゃんと備わっていた。

「いや、元気なのはいいことだ」

「「ありがとうございます」」

 ショウとフィアの言葉は被った。いつの間にかノロは黙ってショウの背中にくっついてきていた。

「それで、一体どのようなご用件でしょうか?」

 ケレスに対してフィアが単刀直入にぶつけた。

「あなたが欲しい!うちで働く気はないか?」

「それはショウ様との契約を破棄しまして、あなた様と契約するということでしょうか?」

「契約?まぁ、仕事として契約はするが……そういうことだ!」

「それは難しいご相談ですね」

「条件はできるだけ受け入れるが?」

「ではショウ様を倒せたらにしましょうか」

「は?なにいってんの」

 ショウはいきなり巻き込まれた。

 次の瞬間、ショウに向けられたケレスの手のひらがあった。魔法が来る、ショウはそう思いながら腕を十字にして身構えた。

 それは予想外の所からショウを襲った。ケレスの攻撃にショウの体は真横に吹き飛ばされた。

 受け身を取って大事には至らなかったが、脇腹にジンジンとする痛みがショウを襲っていた。

「いってぇ、なんで横から……」

「顔を上げるのじゃ主人様」

 ノロの声でハッとしたショウに、畳み掛けるように1人のメイドが襲いかかって来ていた。

「今は目の前の相手に集中せぇ――短剣を手に取るのじゃ!」

 ノロの言葉にショウは短剣の柄(持つところ)に手をかけたが、抜くのを躊躇った。

 しかしそれはショウの防衛本能によって不本意ながら抜くことになってしまう。

 メイドの手に持っている銀色に光り輝く凶器は、料理を作るのに使った方がいいとショウは思いながら今に向き合っていた。

「くっそ~、先走るとロクなことないな……」

「そうじゃな」


 ショウはフィアと短剣の訓練を洋館にいる間、毎日のようにしていた。ショウにとって短剣の訓練などやりたいものではなかった。だから抵抗として一度も短剣をフィアに振ることなく、ただ避けることだけに集中していた。

「あのですね……やる気はあるのでしょうか?」

 それはフィアの呆れる声。ショウにはそれが言い訳のように聞こえていた。

「はぁはぁ、ざまあみろフィア。全部避けたぞ」

 ショウは息が上がりながらもフィアの攻撃をこの日初めて全て避けきった。避けられたことがさぞ悔しいかったのだとショウは思った。

「それはありません!」

 ショウの思考を読みつつ勝手に拗ねているフィア。

「こちらに攻撃をしていただけませんと、のちにご主人様自身が苦しむことになりますよ?」

「ならこの家から出してくれ。そしたら攻撃するけど」

 条件を出したがフィアはそれを拒んだ。

「どうやら今の速さに慣れてしまったようなので、これからはもっとスピードを上げます」

「え?――うわぁ!」

 目の前からフィアが消えた。と思ったら時にはもう足を払いのけられていた。

 ショウはそのまま喉元にフィアに短剣を突き付けられた。その速さは今まで訓練していたものとは違う。一段階上がったものだった。

「はい、今ご主人様は死にましたよ。次はどのくらい生きていられるか見ものですね」

「手加減してたのか?」

「はい。まずは普通の方からと思いまして……ちなみにですがあと10段階ほどあります」

「今のは?」

「2段階目でございます」

 今までのが1。ショウにとって避けるので精一杯なのにまだレベル1だった。

「ここからは短剣を投げていきますので、避けきれない時は弾いてください」

「……まあ、痛いのはやだからな。それくらいならいいけどさ」

 ショウはしぶしぶだが短剣を使うことを決めた。そうならざるを得なくなることをこの時のショウはまだ知らなかった。

「……10段階目ってどうなるんだ?」

「体験してみますか?」

 元の位置に戻るフィア。ショウもそれに合わせて立ち上がった。

「ではいきます」

 その掛け声がショウの耳に届いたのは、フィアの攻撃が喉元を捉えるより遅かった。

「……それ使わせた相手っているの?」

 それは人を超えていた。魔法と同等の力。ショウは改めてフィアが化け物なのを思い知った。

「おりますよ。ノロ様です」



 飛んできたのは6本のナイフ。

 ショウは回避できた4本のナイフを除き、残った2本は短剣で弾き飛ばした。

 そのナイフを追うように突っ込んできたのはアツだった。手に持ったナイフとショウの短剣が交錯する。

「……くっ。本気なのか」

「まさか、殺したりは致しません」

 ショウと向き合うアツのその顔は、握手したときの顔とは違って真剣そのものだった。

「じゃあなんでナイフなんか」

 ショウは質問した。アツはナイフを振り上げたり、突きを繰り出してきたがそれはすべて空を斬っていた。フィアとの訓練の成果なのか、その余裕が今のショウにはあった。

「……ショウ様がかわいいからかな」

「……え?」

「スキありです!」

 返ってきた答えは斜め上すぎてショウは一瞬動きが止まってしまった。そこにナイフが飛んできたがそれを避けきった。

「今の避けますか!?ふつう無理ですよ?」

「あいにくだがもっとやばいやつがいるからな」

「そう……だけどね!!」

 そう言うとアツはジャンプした。ショウは釣られるように目で追った。追ってしまった。

 まだ二人、アツの後ろにいることをショウは忘れていた。

「しゃがむのじゃ!」

 ノロの声にショウはとっさに反応した。何か熱いものと冷たいものが頭上を通過していくのを感じた。

 ドーン。とショウの後ろで大きな爆発が起こったのはそのあとだった。

「なにいまの!?」

「上じゃ。上!」

 ショウに息つく暇はなかった。後退しながら戦っていたことで噴水が尻目に見えていたことでとっさにその方角に飛び込んだ。

 それは間一髪。もといた場所には上空から無数のナイフが雨のように降ってきた。

「今のも避けますか……何者ですか」

「それは俺も知りたいよ!」

 そのために旅に出たのだから。

「主人様、そこはかっこつけるところじゃろ」

「そうなの?……う~ん」

 ショウはじっくり考えて、あるものがひらめいた。

「ショウ者だ!!」

「……それでは小者こものになってしまうぞ」

 それはこの世に生きる全ての者。ショウ者。

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