8冊目 長なじみ
ミネアの町には領主たる者。つまりは町の長がいた。
ショウの前に現れた青年。その人物こそ町の長。<ケレス・ミネア>その人だった。
ケレスは<魔牛>の到来により活気溢れる町の統制に追われる他、各国の貴族や領主達のおもてなしをしなければならなかった。それはケレスにとって毎年必ず訪れる変わり映えのしないいつもの行事。
「お前達、今日もよろしくな」
ケレスは部屋にいる三つの顔に向かってそう言った。
「「「はい!ご主人様」」」
返ってきたのは息の合った三つの声。メイドである彼女達は三つ子である。
<シン>。<トウ>。<アツ>。全く同じメイド服、同じ顔、同じ声。違うのは性格とあともう一つ。いやもう三つか。
三つ子はこの町を守る<ミネアポリス>と呼ばれる警備隊の隊員でもあった。
「ご主人様の今日の予定を発表しまーす!ドンドン、パフパフ、ド~ン」
元気一杯の声と子供のようなその無邪気さ。初対面で彼女が長女と思う人物はいないとケレスはつくづく思った。<シン>。
「……おい!ちゃんとやれシン」
男勝りで一番の強さを誇る次女。シンの相手はトウに限るとケレスは思った。<トウ>。
「これから朝食でございますが、くれぐれも粗相のないようにお願いいたします。
お昼は町の見回りです。これには私達も同行いたします。最近手配書の人物の目撃情報が出ておりますのでお気をつけください。
夜はあの方をご紹介いたしますのでお時間をいただきたく存じます」
メイドとしての力と、真面目さは一番の三女。<アツ>が最初にしゃべってくれればとケレスはいつも思う。<アツ>。
シントウアツ三姉妹。それはケレスの幼なじみでもあった。
「あ~!アツちゃんまたとった!」
「シンねぇがちゃんとしないからです」
「その通りだぞシン!……いつも助かるアツ」
「トウねぇのお陰です」
三者三様。この三つ子がいるからこそケレスは毎日楽しく過ごせていた。辛い過去を乗り越えられた。それでもケレスには足りないものがあった。
「今日もあいつらの相手か……」
ケレスに付け入ろうと魔牛という名目にミネアに来る貴族や領主達。
それはケレスにとってただただ苦痛の時間でしかなかった。それでもしっかりと相手をしなければならないのは、この町を守るためであった。
この町に落としてくれるお金。それは魔牛しか見所のないこの町にとって、重要なことなのをケレスが一番よく知っていた。
「ご主人様、そのような言い方はあまりよろしくないかと」
「悪い。口が過ぎた」
すかさずアツが注意を促した。アツの真面目さがケレスを正してくれる。
「ご主人様、いけないんだ~」
「バカっ!やめろ」
「いたっ~お姉ちゃんをぶつなんて悪い妹だなぁこの、この~」
「ひゃー!!わかった、わかったから許してくれ~」
シンとトウのおふざけがケレスの癒してくれる。
「えー、ゴホン!」
ケレスは一つ咳払いをしてその場を持ち直させた。ビシッとする三つ子。
「「「行きましょうか、ご主人様」」」
「ああ!」
ケレスにはぶつけ合える友人が欲しかった。それは三つ子では絶対に埋められないものだった。
男の友人。親友と呼べる者。それが欲しかった。
男にしか分からないこと、男だから言えること、男の悩みは男でないと分からないからだ。
ケレスがショウと出会うのはこの時から半日経ってからだった。