三章 78冊目 リーエ救出作戦3 Re:エンド
ロネイがショウを背負って歩くこと数分。
「さっ、ショウ様。到着しましたよ」
「……到着しましたよって言われても……いってー……」
妖精王の部屋の前へと到着。
が、ショウは苦痛の声を上げる。ここへと到着するまでの間、ロネイの背中で揺れる度にそれは漏れていた。
そのために、背中から下りようにも耐え難いものがあった。
回復魔法とはいえ、当たり前だが速乾とはいかない。それほどの損傷を受けたのは明らかで、むしろ生きていたことが奇跡といえる。
頭から足先までもれなく全身。拷問の跡こそ目には見えないが、それが完璧に修復されるのには少し時間が掛かる。
「リーエ! ショウ様を連れてきたぞ。早く開けろ」
そんなショウなどお構いなしに、リーエのいる部屋へと呼び掛けるロネイ。ロネイなはずなのに、それが白い悪魔に見える。
「……ま、待てよ、ロネイ。乱暴すぎないか? リーエだってまだ落ち着いてないかも知れないだろ?」
「あっ……そういえば言ってませんでしたね。これはリーエからの要請ですから、問題ありません。私はもう会ってますので」
突拍子もなくカミングアウトしたロネイ。「いつだ?」と聞くと、「昼間」ですと――一先ずその扉が開かれたことに、安心が舞い降りた。
そして疑問も降ってくる。
「……救出作戦って言ってたぞリジュのやつ」
リーエ救出作戦。救いだすために必要な力は多い方がいい。それなのにフィアを何故か除け者にするため、犠牲になったリジュ。
セニア眠りに、ノロはその付き添い。
結局はショウとロネイの二人の救出作戦だが、実際にはもう終わっていると今しがた告げられた。
となると、考えられるのは除け者にした存在からの救出ということになる。
「……フィアからってことか」
「そうです。そのためにショウ様の力が必要だったのです。何とか上手くいってよかった」
肩の荷が下りたのか、ほっと一息ついたロネイがいる。その荷物となっているショウも、ゆっくりとロネイから下ろされた。
「……多分バレてるぞ」
「……えっ?」
そうロネイの背中を叩き、その横を過ぎ去りながらそう言うと、拷問のお返しとしてまた別の重荷を乗せて上げた。
リーエ救出作戦の本当の意味を今から知るために、ショウはその扉をノックする。
コンコンと鳴る闇の帳の中、「……開けてくれるか?」と、ショウはそう投げ掛けると、引かれた扉から出てきた一つの手によって、ショウの全身は扉の中へと吸い込まれていった。
部屋の奥へと投げ飛ばされて、全身が軋む。
バタンと鳴って、息咳切らせたリーエが――いつものリーエの姿がそこにはあった。認識したのも束の間、
「――――ッ!」
リーエの手が喉笛を締め付ける。まるで初めてリーエに認識された日と同じように、またしても首を掴まれて壁に叩きつけられた。
「お姉さまの仲介をしていただきたく存じます。ご主人様」
頼む態度とは程遠く――それでいてその懇願を何がなんでも受け入れさせようと、喉笛を締め付ける力がますます強くなる。
――お、落ちる……。
そんな思いだけが、今のショウの脳を支配する。
投げ飛ばされたことにより力が入らず、ただリーエの伸ばされている腕に触れることしかできない。
「答えてくださいご主人様!」
答えたいのは山々だが、応えられない現状と、堪えることのできない状況に追い込まれて、泡が吹き出しそうになる。
「……あっ! これではお答えできませんよね」
「ゲホッ……ゲホッゲホッ」
まるでからかって遊んでいるかのようなリーエであった。
そんな冗談では済まされるはずのない、『死』が間近まで来ていた。あと少し遅かったらと思うと――。
床の上に倒れ込み、ただ命を繋ぎ止めるための呼吸を繰り返しては、咳払いで何とか一命をとりとめる。
「……はぁはぁ、ば、バカ野郎がぁ……こちとらなぁ、白い悪魔のやつに、やられて、ボロボロなんだよ……」
「だからなんですか? それはご主人様が招いた結果のはずです。私とは何ら関係ございません」
先程の教えられた自分自身のための怒りを元手に、ありのままを全てぶちまける。
が、リーエの言葉が正論過ぎて突き刺さる。
それでもこうなった要因は他にもある。
「……お、お前の、せいがほとんどだぞ……」
「他人へ罪を押し付ける前に自分を見直した方がよろしいのでは?」
「……くそ、メイドがぁ!」
その言葉に反応したのか、ショウの胸ぐらを掴んで起こし、睨みを効かすリーエ。詰め寄られている状況で、
「……今度は泡を噴いてみたいとは思いませんか?」
と、睨む表情とは裏腹に声色は自然体である。
それが冗談半分、本気半分――だとしても、このまま突っ走れば確実にやられる。
すぐさまショウは首を振り拒絶を見せる。怒りなどとうに消し去られた。
「では、お姉さまとの仲介はよろしくお願いいたしますね、ご主人様」
半ば強制的にその仲介役に決まったが、それが何なのか分からない。
掴んでいた胸ぐらは離され、どこか清々しい表情になったと思えば――突如としてリーエは、
「……ご心配をおかけして申し訳ありませんご主人様」
と、ショウに許しを請うためにあの姿勢――土下座という行動をリーエは取った。
コロコロと変わる姿を魅せるのがリーエという人であり、妖精である。
「……別にいいよ。それよりも顔を上げてよく見せてくれよ。お前ってやつを」
「……気持ち悪いですね」
「あのなぁ……俺は久しぶりにお前をちゃんと見たいだけだよ」
「……分かりました」
ゆっくりと体は起き上がり、正座の姿勢へとなったリーエの表情は――。
そんな表情を堪能したショウの体は壊れかけ。床に座り込んでいて、動けずにいる。
リーエはそんなショウの目の前に歩みより、正座をして回復魔法で治療をし出した。
「俺がフィアとリーエの仲介って……何するんだ?」
「お、お説教を……その……」
一先ず落ちついたために、救出作戦の真の意味を問いただしたが、リーエは言いづらそうにして、うつむいた。
ショウはそんなリーエの頭を撫でて、「ごめん。野暮だったな」と、反省混じりに、許しを請う。
――またやってしまった。
そう思ったのだが、
「いえ……その……操っていました時、アメルの前でお姉さまに言われたことです……」
と、少しの間があったものの、頑張って紡ぎ出してくれたリーエ。
それに応えるために、記憶を辿る。
が、あの辺りから完全にリーエに持っていかれていたためにほとんど記憶にない。
「……ごめん――でも、何とかしてやるから心配するな」
「……よ、よろしくお願いいたします。うぅ……お、お姉さまのお説教は、そ、その……とても厳しいので……それに今回はご主人様のことですから……うぅ……み、身勝手で、も、申し訳ありません」
突如として震え出したリーエ。
身勝手なのがリーエのいいところなのだが、その態度さえも弁えさせるほど、フィアの説教がどれ程恐ろしいものかを裏付けさせてくれる。
だからこそ、ロネイとリジュの頑張りがあったというのがそれとなく察せられる。
回復魔法を掛けてくれるそのリーエの小さな手をゆっくりと取って、顔を上げさせようと少しだけそれを持ち上げた。
握られた手に反応するように、ショウとリーエの顔が取り合っている手を中心に向かい合う。
そして、
「忘れたか? 救ってやるって言っただろうが」
そう優しく訴えかける。
リーエは新たに、その表情を作り上げてくれた。
「はい! ありがとうございますご主人様」
その言葉と共に、先程の笑顔とはまた別の――今までのどの笑顔よりも最高の笑顔がリーエからプレゼントされた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
フィアとリーエとの仲介は成功し、リーエへのお咎め無し。
何だかんだあったが、とりあえずはすべて一件落着――。
「ショウ~!!」
とはならず、リーエによく似た者は、怒りの矛先をショウへと向けて出す。
罰がまだ残っていたのをショウは忘れていた。




