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メイドBook  作者: やまは
アメル王国とリエージュ
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三章 58冊目 やらせないよー

 放り投げられた先が湖であり、リジュもそこへと落下したのが、ラッキーガールが由縁なのか、それともリジュ自身の導きだったのかは定かではない。

 何はともあれ……なんて状況ではない。リーエの姿はどこにも見えないし、雷さえもどこから放たれたのかさえ分からない。

 ただ一つ言えることは、殺すことを全く躊躇っていないということだ。


 一つの水しぶきしか上がらなかった。それを上げたのはショウ。

 放り投げられたお陰で、いち早く着水。水魔装による自然魔力を取り入れそれを軽減する。

 着水する前のリジュに追いつき、キャッチしすぐさま陸の上。緑にそっと横にした。

 全身ボロボロ。服は黒焦げ、素肌は赤く腫れ上がり痛々しい。愛くるしさのあった表情は見る影もなく、今は苦痛の表情で必死に息を荒らげている。


「俺の目の前で死なせてたまるか! 絶対に助けてやる!!」


 手を握りしめ、ショウの名においてそう誓う。こんな悠長な行動は命取り。それこそ殺してくれと言わんばかりに、ショウはその場から動かなかった。いやこの場合、動かないでいると言った方が正しい。

 リジュの手はしっかりと握ったまま、それを成すための絶対条件の一つを待った。


 先も見えない、リーエも見えない。そんなお先真っ暗状態の中、今優先することは、リジュを助けること。リーエを止めることよりも、このままみすみす死なせることなんて、ショウには出来なかった。

 それはいつものように賭けが前提であったが、ショウとリーエでは力の差が歴然。それは、誰の目から見ても明らかなのだから。


 リーエが容赦なく襲ってくるのは間違いない。それも正確、無慈悲に。だから来るのを待った。『雷』を。

 案の定それはすぐにショウに落ちてきた。音など一切ない。あったかもしれないが、そんな雷速を捉えられていたら苦労はしない。


 ショウを伝い、手の先にいるリジュにもそれはきっと伝わる。

 ――一緒に死のう。

 なんていうのはありえないし、決して無策でそれを待ち構えていたわけではない。あるトラップを仕掛けていた。

 『誘発』の掛かったトラップ魔法を、全身に張り巡らしてその時を待っていた。


 全身どこからでも魔法は出せる。そう、それはリーエと毎晩、鍛練を積み重ねていた、魔法の出す場所を変えるというものだ。

 全身から出すのは、魔装に近いものだったので、一ヶ所から出すことよりも、それは容易に会得できた。

 強大な雷魔法を回復魔法へと変換するためのトラップ。


 ショウの回復魔法は他者を癒せるほど、優れたものではない。一を精々、五にするぐらい。その微小な回復でさえ、大量の魔力を消費するのが現状。だからこそのトラップ魔法。


 リジュの全身はすぐさま元通り。赤は引いたが、服までは元通りとはいかない。魔法の種別違いだからそれは仕方のないこと。


 トラップ魔法は相手の魔力に反応し、トラップ魔法を掛けた本人の魔力には反応しない。

 トラップ魔法『誘発』からの変換トラップにはタイムラグがどうしても発生してしまう。ほんの数秒。その数秒は雷にとっては長すぎる数秒。リジュに到達してしまう前にそれは変換されたが、ショウにはそれが確実に流れ伝わっていた。

 たった数秒。その雷がショウをブラックアウトさせるには十分すぎた。その後の回復魔法が流れたといえ、だ。


「……ん。ショウ。ありが……ショウ?」


 回復が行き届き、目を開いたリジュが起き上がって見たものは、ショウが横たわり倒れている姿だった。倒れてもなお、その手だけはリジュと繋がれていた。

 ゆっくりと紡がれた言葉が弱々しさを捨てて、


「ショウ! ショウ!! しっかりして。ショウー!!」


 荒々しさを全面に出し、起き上がって必死にショウを揺さぶるが、そのリジュの呼び掛けさえショウには届かない。

 リジュが助かったことさえも知らずに、ただ暗闇の中をさ迷う。


 それは死への道か、はたまた戻るための道なのかさえも分からずに。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 迫る足音など、これと比べれば……なのか、ショウを揺らすリジュの手は止まらない。耳に入っていないのかもしれないが。


「ショウ! ショウ……しっかりしてよ。ショウ……」


 今にも泣き出しそうな声で呼び掛け続けるが、ショウはそれでも反応はない。リジュの後方に突如としてリーエが現れ、その光景を見下している。


「どいてください、リジュ――手を繋いでいると思えば、こんな姑息な手を打っていたとは思いもしませんでしたよ!」


 感心したような、それでいて呆れたような。倒れるショウを見るその目付きはさらに冷たさを増していることが窺い知れる。


 リジュはショウの手をゆっくりと緑へ落とした。そして気づいたようにリーエへと正面向いて立ち上がった。ボロボロな服装ながらも、小さな全身を目一杯使った『守る』という意志を持つ、両腕を広げる構えを見せて、


「や……ない。……せない!」


 ぶつぶつとうつむきながらリジュは呟いた。その声はそこから進化し、この場に拡声される。


「……やらせない!」


『やらせないよー!! お姉ちゃんっ!!』


 涙を含みながらも、小さなその体から発せられた言葉には、目付きには、勇気には、誰よりもショウを『守る』決意に満ち溢れている。

 怒号のごとく、眼光鋭く、怯むことなど知らないかのように。


 この場の誰よりもその意志を持ち合わせているのは間違いなくリジュだ。

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