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メイドBook  作者: やまは
アメル王国とリエージュ
49/131

三章 49冊目 妖精

 それはふとそこに現れた。 


 フィアのたかいたかいの動作には意味があった。

 そこに一人の女の子がいたからだ。

 黄色の短髪の毛先は緑が混じっていた。

 丸みがある顔だちに短身の体。こちらが目のやり場に困るような、素肌を露にした上下一体の服装に袖を通していた。

「わ~、捕まった~」

 どこか嬉しそうな声で両手を上げているその子は、フィアによって地に着いた。

「<リジュ様>、どうしてこちらに?」

「ただ来ただけだよ~? ここはリジュの遊び場だからねっ」

 リジュと呼ばれた女の子は、そう言うとまた姿が見えなくなった。

 ショウは目を離さなかったのに、いつの間にか消えていた。

「じゃあね~」

 そんな声だけが空からした。空を見上げるフィアにショウも合わせたが、そこには青と白しかなかった。

「どこいった?」

「飛んでいってしまいました」

「飛んだ?」

 浮遊魔法に透明化の魔法まであの一瞬で使えるとはいったい何者なのかとショウは思った。

 そんなショウの思考を読んでか、フィアはフフッと笑い声を上げた。

「なにが可笑しいんだよ」

「いえ、そういえばご主人様がご覧になるのは初めてかと思いまして」

「初めて? 透明化がってことか?」

「そうではありません」

 フィアはその答えを並べてくれた。


『――<妖精>が羽を広げるところ。と言うことです』


<妖精>とはこの世界で二番目に数が多い知恵を持つ種族。

 見た目は人間と変わらないが、背中にある羽が特徴であり、とても長生きらしい。

 その羽は通常見ることが出来ない。

<妖精王>の加護により初めてその姿を捉えることができるとのこと。


 ロネイの待つところに戻ったショウは<妖精>について知った。

 だから浮遊し、透明になったように見えたのかと、ショウは理解した。

「……軽食とか言ってなかったっけ?」

 ショウは緑に座り込み、話を聞きながら軽食の登場を待っていた。が、フィアやロネイは話すだけで、全く動きがなかった。

「リジュ様が食べたいと言ったので……」

 ロネイは申し訳なさそうな顔をしながら、ことの成り行きを説明してくれた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ロネイの耳には色々と情報が入ってくる。

 この聴覚の感性だけは誰よりも良いとロネイは自負している。

 地上であることが条件であったが。

 しぶきの音。リーエの寝息。鳥の声。羽の微かな揺れ。

 集中したときのロネイの聴覚は、あらゆる微細な音さえ聞き取れるが、精神が持たなくなるためほとんど使わない。

 常人より少しい良い程度で抑えるのがベスト。

 この事をショウに伝えると、デビルイヤー、と変な名称をつけられた。

 だからこそリーエの寝息が消え、そして突然現れたかのように寝息を立てるそれが、ロネイは不思議は思っていた。


 ショウが湖にしぶきを作ったときだった。

 その音に反応したフィアとロネイ。

「姉様、私が」

「いえ、私が参りますっ!」

 ロネイの反応も聞かず、フィアはそれだけを残し湖へと消えていった。

 ショウのこととなると目の色が変わる。

「なるほど、こういう時は助けるのか」

 一人になったロネイはぶつぶつと聞こえるか、聞こえないか、両者がせめぎあうような声で呟き、顎に手を当てて考え始めた。

 ショウを助ける。フィアが引いているその線は結構曖昧なのだと、出会ってから数日だがロネイは知った。

 そしてある程度の境界線をロネイも引いている。

 フィアの意向を汲み取り、理解し、それを実行する。弟子として当然のこと。だったが、

「……はぁ、まただ」

 顎の手は額へと移動し、大きなため息が出た。

 汲み取るんじゃない。聞くんだ。溜め込む必要はない。

 ショウやフィアに言われているのだが、ロネイはいつもこうなる。

 ロネイのもつ、一人で抱え込む悪い癖がまた出ていた。

 新たなしぶきがロネイの耳に伝わったのは、それから間もなくのことであった。


 それはふと聞こえた。


 額に手を当てながらも、近づくその音を逃しはしなかった。

「わ~い、パンだ~!」

 皿に置かれた物を、無邪気なその声を出す者が盗み食いしようとしていた。

 背中の服を掴み、持ち上げるとバタバタと暴れだしたが、抵抗力はほとんどない。

「リジュ様っ! これはショウ様のです」

「うわぁ~ん。ロネイのイジワル~。少しぐらいいいじゃんっ!」

「リジュ様の少しは少しではありませんでしょ」

「――あっ、バレた?」

 ころっと態度は豹変した。

 見た目相応の子供らしい態度はいいことだが、もう少し自覚を持って貰いたいものだと、ロネイは思っていた。

「少しだけですよ」

「わ~い! ありがと~ロネイ~。一緒に食べよっ?」

 シーラー国の三将として、この申し出を断ることなどロネイには出来なかった。

 パンを渡してくるリジュのそれを受け取り、一緒に緑に座り込んで食べ始めた。

 リジュは<アメル>王国の次期王様。つまりは次期<妖精王>なのだ。

「ん~~、おいし~。もっとちょうだい?」

 断れない。

『ショウ様、ごめんなさい』

 ロネイはそう思いながら、食べるパンはとてもおいしかった。


「てめぇも食ってんのかよ!」

 ショウのツッコミがその場を支配した。

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