三章 48冊目 オアシス
さらに歩くこと二日。計五日目の昼頃。
リーエはあれから少し落ち着きを取り戻していた。
今もスヤスヤとショウの背中で眠っている。
新たな砂の起伏を越えると、その先には茶色とは別の色が広がっていた。
そこは水と緑が生い茂る、小さな楽園にショウ達は出会った。
「あそこで少しの間休憩いたしましょう」
フィアの提案にショウとロネイは賛成の声をあげた。
ショウの足は今まで移動の中で最も軽やかな足取りを見せていた。
<オアシス>とは正にこのこと。
生える木々が転々としている。芝の緑に、点在する花の色達は小さな湖で命を繋いでいるのだろう。
小さな鳥達もここがお気に入りかのように、集まっていた。
ショウはオアシスの湖一直線に向かった。
先ずは何よりも水分補給がしたかった。
「ショウ様、少しお待ちを」
ロネイにそう止められ、すでに手で作っていた受け皿が元の二つに戻った。
それは毒味と言わんばかりに、ロネイ先に飲み始めた。
「大丈夫のようです。どうぞ」
「気ぃ使わなくていいぞ」
「そうはいきません。ショウ様のためなので」
「そうかい。ありがとなロネイ」
ショウはお礼を言いつつ、新たな受け皿を作りその水を掬い上げた。
美味しいとまではいかないが、飲めるだけありがたい。
ショウは生き返った心地がした。
日の光から守ってくれるような、そんな木にもたれかかったショウは座って足を伸ばした。
目の前の湖に、一匹のかめが青いオーラで泳いでいるのが見えた。
あれがフィアやリーエやロネイだったのなら、とショウは思った。
「ごしゅりんしゃまぁ……zzz」
ショウの傍らで眠っているリーエは、何回もショウの片腕に抱きついてきては、引き剥がされての繰り返しを今でも続けている。眠気を誘うような心地よい気候であったが、それはリーエによって何回もかき消されていた。
「何でこんなにくっついてくるんだ?」
ショウはいつもそう思っていた。
リーエを突き動かすものが分からなかった。想いなのか、フィアの主人だからなのか、近くのやつにくっつく性質でもあるのか。
頭を撫でると、「んんっ~」と声を上げるリーエはまるで子猫のようにかわいいやつだった。
「ご主人様ー、軽食をお作りしましたのでこちらにお越し下さい」
木の後ろからフィアの呼び掛けが聞こえた。
リーエを元の位置に寝かせると、ひとまず手を洗うついでにノロの回収に湖へ向かった。
とっさのことで水魔装が遅れた。
そこには、何もなかった。何もいなかった。何も感じ取れなかった。
「ロ~リング、リジュ、アタ~ックっ!!」
と言う謎の声がした瞬間、ショウは屈んでいた体を押され、湖に叩きつけられていた。
水の中を駆け抜ける光のようにショウは考えた。
超スピードで考えた結果、今すぐ浮上して犯人をこの水中に誘う答えだけを携えて、浮上した。
「だ、大丈夫ですか!? ご主人様?」
「――お前かっ!」
「え? きゃぁ!!」
確認もせずにショウは、伸ばされた手を引きずり込んだ。
それは誰がどう見ても救いの手だったはずなのに。
「あれ? フィアか」
引きずり込んだ相手をようやくショウは理解した。
助け舟こと、フィアはそこに二つの『いかり』を落とした。
「どういうおつもりですかっ! いきなり引きずり込むなど想像を越えていますよっ!!」
「俺だって越えたくて、越えたわけじゃないわ! 誰かに押されたんだっ」
「誰ですかっ! 誰もいませんでしたよっ!!」
「知らないって言ってるだろうがっ!!」
「知らないで済む問題ではありませんっ!!」
「――落ち着かんかっ!!」
ノロの一喝にショウとフィアは押し黙った。
青に輝く世界。静かな時が流れた。
「ノロは見てないのか?」
今のフィアとショウは話す気になれなかった。
仲介かめ、ノロに一旦パスを出した。
「分からん、主人様が落ちたので急いできたからのぅ」
「魔力の波は?」
「魔力など出しとらんかったぞ」
「魔物か?」
「それはないじゃろ。フィアとロネイがいるのじゃ」
「――ますますこいつが怪しいなぁ! すぐにきたのに気づいてないって」
親指向けて、誰かさんにショウは合図を送った。
「っ、申し訳ありませんご主人様。このフィアなんなりと罰は受ける所存です」
あまりの急変したフィアの態度にショウは戸惑った。
そこまでフィアがする必要はなかった。どちらかといえば悪いのはショウだ。
ショウは頬を掻いて、フィアを尻目に見た。
「このダメイドになんなりと罰をお申し付けくださいっ!」
「――いや、そんなことしなくていいよ。俺が悪かった、ごめん」
フィアの謝罪はあまり聞きたくなかった。
悪くないのにフィアに謝らせていることに、ショウは嫌な気分になった。
「これで仲直りじゃ。下らんことでいちいち喧嘩するでないっ!」
「「はい」」
二人揃って仲良くそう答えた。
変な攻撃名が頭から離れなかった。
それは浮上し、湖から陸に上がった瞬間だった。
「ロ~リング、リジュ、アタ~ック!!」
その謎の声がまた聞こえた。
身構えたショウだが、何も起こらなかった。
起こったことといえばフィアがショウの目の前に立ち塞がったことか。
その手はまるで人でも掴んでいるかのように、たかいたかいの素振りを奇妙ながらしていた。
透明人間とフィアは向き合っているような、そんな光景がそこには広がっていた。




