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メイドBook  作者: やまは
オーメリス王国確率変動中
44/131

二章 44冊目 かち

 昼のオーメリス城。その屋上ではいつものように金属の音が鳴り響いていた。

 短剣は振っても振っても、弾き返された。

 この鍛練はロネイにとって片手間のようにショウは見えていた。

 片手で刀を易々と振り、まるで遊んでいるかのように。ショウなど眼中にも入っていない。

 それがこの五日ずっとそうだった。

「おいっ! やる気あんのか?」

 流石にこの態度をとる純白メイドに腹が立った。

「懐にすら入ってこれないショウ様にも問題があるのでは?」

「真面目にやれよ、じゃあ」

「では真面目にやります」

 両手で刀を構え、真剣な眼差しのロネイに隙はない。

 それでも突っ込んでいく。

 弾かれても、弾かれてもショウは食らいついた。

 長い刀と短剣。入り込めさえすれば勝機はあるが、入り込もうにもロネイはそれを許してはくれなかった。

 いつも寸でのところで刀が邪魔をする。

 そんな刀をなんとか受け止めた。

「受け止めていてはいつまでも入ってこれないですよ」

「うるせぇ! このっ!」

 弾いた刀の隙は短剣の比ではない。

 この隙が千載一遇のチャンス。踏み出そうとした瞬間だった。

「……ショウっ!」

 背筋が凍った。これ以上踏み込んだら確実に死ぬ。そんな雰囲気を感じ取った。

 悪魔に刈り取られる。

 殺気というものを今のロネイからは感じない。

 というか、ロネイ風にいうと殺気はさっきまでそこに現れていた。ほんの刹那に白い悪魔が出すと、ロネイは言っていた。

 だからロネイに殺気はない。

 ショウはその場で踏み留まった。首の前を刀の冷たさと風が通り抜けていった。

「ば、バカ野郎。魔力感知状態じゃないと対応できないんだって言っただろうが!」

「あっ! も、申し訳ないです」

 ロネイは刀を仕舞い頭を下げた。

 これが鍛練の終わりの合図になっていた。

 ショウも短剣を仕舞った。

「フィアも何か言えよ」

(なん)かとはなんですか?」

「……それはギャグか?」

「アハハハ、姉様それ、いいですよ」

 下らないことに高らかに笑うロネイ。それでこそロネイだ。

 白いメイドは、ショウに新たな風を運んでくれる存在になっていた。


 夜になるといつもどこかにリーエは消えていた。

 この五日間、魔法の鍛練はノロとしていたが、人形(ひとがた)じゃないと分からないことがある。

「こうじゃ、こう」

「こうって、どうやるんだ?」

「こうといっとろうが……こうじゃ!」

 らちが明かない。かめのぬいぐるみはどこがどこを指しているのかよく分からない。

「ご主人様、やはりリーエ様の方がよろしいのではないでしょうか?」

 フィア自身、教えてあげたいという想いがショウにはよく伝わってきていた。

 本当はフィアから教えられるのが一番いいのだが、リーエに仕事を与えないとそれはそれで拗ねる。夜はリーエの時間だからだ。

 リーエにお任せとか言っておきながら、何の断りもなく消えるリーエにショウは我慢の限界がきた。

 城の一室を飛び出し、屋上に駆け上がり一発の虹を放った。

「……見つけましたよ!!」

 魔力感知でリーエの魔力を感じ取った。

 すぐさまその場所に向かって走り出した。


 コロンと回る玉はカタカタと弾んで、赤に吸い込まれた。

「リーエさん、また外れです」

 ディーラーという立ち位置で、トハクはそう言った。

 トハクを前に、リーエとシキは座ってそれを見て、その後ろにナナイは立っている。

 バタンと開かれたドアに全員の視線が集まった。

「ご、ご主人様!?」

「あら。ショウ様もどうですか?」

「……え?」

 驚きのリーエに以上に、その場にいる王と王子にショウは驚いた。

 シキの促す声に反応できず、それを見ていたナナイによって引っ張られ、シキの隣に座らされた。

 なんだかんだで、ショウはその賭け場に巻き込まれてしまった。


 ショウはシキから説明を受けた。

 ポーカー。

 ある程度、ショウは<記憶の欠片>で知っていたが、やるのは初めてだった。

 トハクは慣れた手つきでカードをシャッフルすると、一枚、一枚配り出した。ショウ、リーエ、シキ、ナナイの順に。

「私は魔法の鍛練がしたいのであってですね……」

「その状態でですか?」

 ズバリを突かれた。

 リーエは配られたカードを淡々と手に取り、交換を促している。

 魔力弾を撃ったため魔力ゼロなので、このまま戻っても仕方なかった。

 まさかリーエが夜な夜なこんなことをしていると、ショウは思わなかった。

「フィアさんはこのこと知っているのですか?」

「お、お姉さまは関係ありませんっ!」

 その揺さぶりは思いの外、効いたようだった。

 ポーカーフェイスは無いようだ。

 そんな二人に挟まれているのに、シキは微動だにしない。

 魔力さえ乱れずただ真剣な表情をしていた。

「おおっ! 見ろ見ろショウ。これいいんじゃないか?」

「見せてどうするんですか、ナナイさん?」

「あぁ! そっか」

 ナナイは無邪気にカードを見せてきたが、すぐに気づいたようでそれを隠した。

 ナナイの手を覚えていたショウはすぐさま下りた。

「賭けというのはですね……」

 シキは突如、口を開いて続けた。

「賭ける価値がそれにはあるかで決まるのです。たとえそれが負けると分かっていても」

 賭ける価値。

 ショウは自分のカードを改めて見るがそれに賭ける価値はない。

 だってバラバラだから。役がない。

「私は下りますが、ショウ様は?」

 何故かシキは促してきた。ふと湧き出す行けるような気。

 カードは裏のままこのふざけた手で賭けた。

 それをトハクがオープンさせると、カードは変わっていた。

 ショウは勝った。

「ねっ? 賭ける価値がそのカードにはあったということです」

「……魔力干渉」

 ショウにだけそれは分かった。

 シキとトハク。二人してイカサマをやったということを。

「バレなきゃいいのです」

 こそっとそう呟いたシキ。どうやら花を持たせてくれたようだ。


「賭けた者にこそ(ショウ)は舞い降りるんです」

「賭けこそが私の生者(ショウもの)としての生きざまです」

 オーメリスには二人の小さな王と王子がいた。

 オーメリスには二人の勝負師がいた。

 そして、オーメリスに集まった生者(ショウもの)達によって、一つの賭ける価値は見いだされ、紡がれて、勝ち取った。

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