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メイドBook  作者: やまは
オーメリス王国確率変動中
36/131

二章 36冊目 白のその先

 最悪の状況に陥っている。

 ショウの交錯がまた一つ増えた。

 それを挑発するかのように、指を使って促してきいるテレベス。

 背中越しとはいえ、そのことにそれも感づいているのが向かい合うオーラから感じ取れる。

 震撼する刀の力に、もう両手でないと押さえていられない。

 逆手の片手でこのパワー。順手の両手ならその力は想像もつかない。

「……っ、よ、呼んでますよ」

 もちろん行かせるつもりはない。

 ちょっとした洒落のつもりだった。

 ――だが、次の瞬間。

 ショウは強い衝撃により宙に跳ばされた。

 暗闇を吹き飛ばされる中、左頬に痛烈な一閃を感じたあと、地面に激突。

 なすがままに転げ回るしかなかった。

 全身強打で体がいうことを聞かなかったが、それでもまだ生きているということは行くしかない。

 もつれる足を必死に言うことを聞かせ、起き上がろうと地面に手をかざすや否や、あごに強烈な一撃をお見舞いされた。

 宙を舞うショウは意識が飛んでいくのを感じた。

 そうさせまいとする二つの冷たい刃が、両肩を突き抜けた衝撃がそれを許してはくれなかった。

「っ、ぐあぁー!!」

 両肩の自由を奪われながら、仰向けで地面に叩きつけられた。

 吹き飛ばされた時に落とした短剣が右に突き刺さっている。左には今もなお力を込めて刺し込む刀がそれと共にまたがっていた。

「いい声ですよショウ」

 死ぬ。

 殺される。

 体中が悲鳴を上げ、心までそうなりそうだった。

 死への恐怖と痛みにより荒れ狂う息づかいは先程とは違う。

 痛覚を和らげようと本能的に手は、足は、地面に助けを求めるようにのたうち回っている始末だった。

「……あ……あくま」

「いいえ、ショウ」

 耳元で呟かれた声は何も変わってはいない。

「白い、です。ホワイトを忘れられては困りますよ?」

 声が止むと、左肩に刺さる刀をさらに押し込まれて、苦しみ悶える声が溢れて止まらない。

 二つの刃の傷口がいつまでたっても熱くならなかったのは『ホワイト』という意味が白い格好ではなく、血すら出さないで殺すのだと、ショウは理解した。


 気圧された。その事実にショウは自分が腹立たしくなった。

 あんな言葉を言ってしまったことに。

 引き抜かれた刀のせいで苦痛の声が漏れだすのを止められなかった。

「ショウ。アイツのあとでもっと遊んであげますよ。止められた屈辱はしっかりと払っていただきますからっ」

「ま……ちやがれっ」

 それのオーラが遠退いて行くのを、振り絞るように声で止めた。

「わ、わるかった……」

「なにがでしょうか? この期に及んで命乞いとはそれでもフィア姉のあるじですか?」

「そうじゃ……ない」

 間違えを正すために。

 右肩に刺さっていた短剣を引き抜き、満身創痍ながらも立ち上がった。

 左腕はもう使えない。引き抜いたのが最後の力だったようで、力が入らない。

「おまえはにんげんっ! だっ!!」


『人間だろうがっ!! ロネイーっ!!』


 ショウの一言にそれのオーラが初めて揺らいだ。

「逃げんな、来いよっ! 退治してやるっ」

「……あまり調子に乗らないでいただきたいですね」

 見据える先にはまだもう一人。

 引き抜いた右肩はようやく熱を持ち始めた。

 血を引きだしたことでショウの口調はだんだんと元に戻りつつあった。


 刀の動きが見えているのではなかった。

 握りしめている刀に伝わったオーラを先読みして防いでいる。

「……ぐはぁ!?」

 防いだところで体はガタガタ。

 それのパワーに一振り、一振りで体は吹き飛ばされて地面と向かい合う。

 魔力が無いため、回復すらできないジリ貧状態。できたところで雀の涙ほどだが。

 それでも立ち上がる。振り払ってやるために。

 もうフラフラだった。目の前のそれすらぼやけて何重にも見える。

「……な、んで。立ち上がるのですか」

 ようやく表情を崩し始めたそれは、握る刀さえ持つのがやっとのように震えている。

「っ、さ、っさと戻れよロネイっ!」

 それでも声だけはかけ続けた。

 響かないのなら、響かせるまで何回だって。

「……ロネイ、何をしているっ!? さっさと殺せ」

 まだ払いきっていないというのに、新たな悪魔がそれの隣に現れたのは時間をかけ過ぎたからか。

「……テレベス、邪魔です」

「貴様の甘さを潰してやる」

 巨漢に似つかわしくないその速さと振りかざしてくる巨大な斧を、今のショウに回避する術はなかった。

 激震がコロシアムに走ったのはその後だった。


 ロネイは人間だ。

 ショウだってそれは同じのはずなのに。こうも違うのかとロネイは思った。

 あの時のフィアと似ているようにロネイには見えていた。

 救ってくれた時と同じように。

 自分の痛みなど関係ないかのように、誰かのために自分をささげるその姿が重なって見えた。


『人間だろうがっ!! ロネイーっ!!』


 響いて、響いて仕方ない。嬉しすぎて、嬉しすぎて。こんな悪魔をそう言ってくれる人間がまだいることに、ロネイは悪魔に抑えこまれている自分が情けないと思った。

 人なんだ。人間なんだ。ショウが言うには生者ショウものなんだ。

「ショウが言った、生者ショウものだ。なんて、アハハハ」

 悪魔だって生者ショウものだ。

 なら分かり合える。

 ロネイは自分の中のもう一人の自分に全てを委ねた。

 2つで1つ。1つには1つ。

 委ねたロネイを待っていたかのように悪魔も委ねた。

 二人の気持ちは一致していた。


「「ショウ様を守るためにっ!!」」


 ここまでショウにした罪は消えない。

 だけどそれは返していけばいい。

 許されないのであれば、命だって差しだって構いはしなかった。


 刀の一閃はその巨斧きょふを持つ右腕を刈り取った。

 血なんて噴出させない。穢れた色と混ざり合うつもりはないからだ。

「うがあぁあ!? ロ……ネイ!? きさまっー!!」

 ショウの前に立ってテレベスと向かい合うと、高らかに刀を天に突き上げ宣言した。

「このロネイ! 救ってくれたショウ様のためならっ!! 1つには1つ。いえ、一生でお返しますっ!!」

 在るべきところに魔力は戻ってきたのを感じた。

 この力はショウを守るために。

「ハハ、止めどないな。その魔力……は」

 力尽きたようにショウは前のめりで突っ伏した。

「……ありがとう、ショウ様。死なせはしません――テレベス、その腕一本で見逃してやる」

 ショウを抱きかかえ、回復魔法と共に緑のオーラで包まれたロネイは疾風のようにこの場を去った。

 天使と悪魔は対峙し、人間となって息を吹き返した。

 白は、ようやく混ざり合える色を見つけることができた。

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