二章 33冊目 Maid In フィア2
ホワイトデビルの中にいたのはホワイトエンジェルだった。
全身、純白に覆われたメイド服はフィア達のそれと似ても似つかない。
肘丈、膝丈までしかないメイド服に身を包み、そこから先の素肌を覆い隠す物たちまで白。短く決められた銀色の髪に架かるアーチでさえ。
うっすら浮かび上がるように見えるかめの紋章はフィア達のそれと同じだ。
右に備えられた刀はホワイトデビルの象徴を残している。
「……本当にホワイトデビルなのですか?」
「如何にも。ホワイトデビルこと<ロネイ>。ロネイことホワイトデビルです」
フィアよりもある胸に手を当て、背を張って答える様は国家斉唱のごとく。
青を携えた瞳に、明るい顔立ちと目移りするような細身の容姿を持つロネイは、並んでいるフィアより大人な印象を与えてくる。
リーエと比べるならそれは顕著に現れるだろう。
その細身であの鎧を着ていたという事実。まんまとトラップに引っかかったショウもそのうちの一人。
「フィアさんとはどういう関係ですか?」
「姉様は私の師匠です」
「……フィアさん、いつから知っていたのですか?」
まさかまさかの二人目というのは、ショウにとってあまりにも予想外。
この事をフィアが知らなかったなんて言い訳にもならない。
目のやり場をロネイからフィアに移し変えながら睨みつけた。声色もそれに倣った変化でお見舞いしてやった。
「刀を止めましたときにもしかしたらと思ったのですが、今日の試合で確信いたしました」
フィアは純粋過ぎるくらいまっすぐな目をしてスラスラと答えた。
そのせいで睨みは元に戻った。
「実際、姉様が知っていたのなら紹介するはずですからホントに知らなかったと思いますよ?」
フィアをフォローするように付け加えてくれた弟子のロネイ。
ショウは目から額を覆うように手で隠しながらうなだれ、ため息が出た。
結果的に繋がれたからよしと言えるほど、失った代償が魔力消失なんて割にあっていない。
ましてやフィアとロネイが師弟関係というのもそれに拍車をかけていた。
隙間から目に飛び込むベッドの白が嫌になった。
気持ちを落ち着かせて、改めてこの現実と向き合うことにした。
「色々とうかがっても大丈夫ですか?」
「1つには1つでお答えしましょう」
「そうですか……ではロネイさんが噴水広場で怒りを露にしていたのは何故でしょうか?」
それは落とし穴の一件。
フィアが知らなかったのはともかく、ロネイは知っていたのであれば攻撃される所以などあるはずがない。
ショウがフィアのご主人様ということは知らなかったとしても。
「……あぁ! あれはリーエに対してであなたにではありません」
ロネイは思い出したかのように手に判子を打った。
発してきた言葉の軽さに、あの時のことなどロネイにとって取るに足らない出来事だったのだと、命からがら逃げたショウにとって何だかむなしくなるものがそこにはあった。
しかもリーエのとばっちりとはこれいかに。
「――というのは冗談。あなたの実力が見たかったというのが本音です」
うってかわってそれは真剣なロネイの表情と共に発せられた。
評価というものが聞きたかったが、次はロネイの番だ。
「あなたの口調はどうしたんです?」
「魔力が無くなったのですよ……あとあなたではなくショウです。名前がありますのでお願いします」
「ショウ様でしょうか? なんて、アハハハ」
急激にぶちこんできたロネイに思わず絶句した。
頭を押さえたフィアから漏れ出たため息と共に、「またですか……」と小さく呟く声は、高らかに笑うロネイによってかき消されていた。
「心が落ち着いている時はこういった高尚な言葉が出る方なのです」
フィアはオブラートに包んでいるがどちらかと言えば低俗。
悩みの種は増す増す増えていった。
実際問題、あのシキの言葉がショウの中でうごめいていたのは事実としてある。
高らかに笑うロネイもようやく落ち着きを取り戻しつつある現状で、
「離れては……ですか」
シキのあの言葉を一人小さくつぶやいた。離れると何かまずいことがあったということ。
予言めいたことで、離れたらこういう状況に陥っているわけで、仮説でしかないがシキによる魔法か、呪いのようなものだとショウは考えた。
「シキ様に呪術の心得は無いと思いますが……どうでしょうかロネイ様?」
「オーメリス王にそのような術は必要ないかと……<固有魔力>の<魔力干渉>でどうにでもなりますので」
ふっとロネイから湧いて出た新たな二つの単語がショウに説明されると、
「それですよっ! その魔力、干渉? のせいでしょう、絶対」
指をロネイに向けてそれだと確信した。
賭けというよりこれは確定だ。
「ですが魔力干渉にそのような力はないと思いますよ?」
「考えられるのはこれしかありませんっ!――!!」
離れたところで一つのオーラが消えた。
「ご主人様?」
「……?」
ショウはベッドから飛び起き、フィアとロネイをすり抜け階段を駆け下りた。
「ショウ?」
「ご主人様?」
「主人様?」
耳を伝わる呼びかけさえ、今は答えるつもりはなかった。
寿命のそれとは違う。命のオーラが一瞬にしてかき消された。
そのことに誰も気づかないのか、それが当たり前のことなのか、そんなことはどうだってよかった。
命を刈り取る悪魔が確かにいる。その事実だけで足は動く。
たどり着いた眼前に広がるそれは昼と夜とで姿を変えてそこで待っていた。
「……コロシアム!!」
「勘は鋭いようで」
「……あなた以上の悪魔がいるようですよ」
「はは、大丈夫。それはないから――覚悟があるってことでいいですか?」
「まさか。私は生者です。死ぬつもりは一ミリもありませんから」
「それはいいことで。どうぞ、地獄への片道切符です」
ロネイから受け取らないという選択肢もある。
「なら、帰りはあなたという天使に託しても?」
キザな台詞と共に天使からチケットを受け取ると、歩みはまた始まった。
また一つ。消えたオーラはショウに怒りを与えた。
命を奪う行為はギャグでは済まされない。




