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メイドBook  作者: やまは
オーメリス王国確率変動中
23/131

二章 23冊目 信頼度

1リン=100円ほど

 魔力ボートレース会場の一角。巨大な建物は歓声で震えている。

「全然こっち来ねぇな……ふわぁあ~~」

 会場の外。予想屋たちに用意された場所に設営された、予想屋・スペクト。

 机に突っ伏したショウはそのまま眠りそうになった。全くといっていいほど人が寄ってこないからだ。

 暇。

 来たのはメイドに釣られた観光客と、フィアに釣られた男たちだけだ。

「ご主人様はやる気ありますか?」

「あるわけないだろ。つかナナイっ! 声出せ声っ!」

「うるせぇ! これがじいちゃんの頃からのうちのやり方だ。邪魔すんなっ! く……」

「むっ!」

 ある言葉を言いそうになったナナイだがそれは止まった。フィアの視線を感じたからだろう。

 活気のある声で呼び止める他の予想屋の中、ナナイは全くといっていいほど声を出さなかった。

「なんだよナナイその姿は」

「う、うるせぇ。そこのフィアさんに言えよ。好き好んでこんなの着るかよ」

「まあ頑張れよ~。野垂れ死にたくなかったらな。ハッハッハ~」

「くそっ!」

 同じ予想屋仲間と思しき者に言われたことに対する怒りはしっかりと伝わってきていた。

 ナナイによる机への鉄槌で、轟く衝撃をショウは顔に受け、跳ね上がったノロは裏返った。

「物に当たるなよナナイ。ノロが裏返っただろ」

「いいだろ……もう帰るぞ。こんだけ儲かったのはショウたちのおかげだ。泊まらせてやってもいいぞ、一人50リンだけどな」

「まだ吹っかけんのかっ! まあいいけどさ。ちょっとコロシアム寄ってくるけど……行くか?」

「いいよ別に……いっとくが飯はないからなっ!」

 手に握りしめられているリンの数にナナイの顔はにやけていた。

 一目散にこの場から去っていったナナイ。

「目先のかねだけで満足なのかよあいつはっ!」

「……<信用>とはそう簡単に回復するものではありませんから」

「あとはやつがどうにかするしかないことじゃ」

 妙に冷め切ったフィアとノロの言葉に、ショウにはあの時とは違う歯がゆさというものが込み上げてきていた。

 踏み出した者と踏み出さなかった者。賭けるなら断然、踏み出した方にベッドする。

 ナナイは踏み出したはずなのにそれでも<信用>は簡単には戻らないらしい。

「ったく、またスペクトはハズレだぜ。見た目が変わっても中身はそのままかよっ」

 また一人に見限らた。塵になった紙吹雪をただ見送るしかなかった。

 ハズレを予想するのだけはナナイの右に出る者はいないのだと、ショウはこのレースの結果とナナイの予想情報で分かった。

 ナナイの後ろ姿はポッカリ空いたものを求めるているようで、またいつもの悪党に戻るのだと告げているようだった。

 人込みに消えるメイド服はただただ儚くて……。


「信用を上げる方法ですか?」

 魔力ボートレース会場を後に、街中からコロシアムへ向かう最中そんなことをフィアに聞いた。

「お前らドライすぎるんだよ、ナナイのために何かしようとは思わないのか?」

「私は一応やりましたけど……」

「メイドは信用とは無関係だと思うけど?」

 それよりもなぜメイドにしたのか。それをショウは知りたかった。

「単なる好奇心でございますよ。それに……」

「それに?」

「メイドは信用とは無関係ではございませんよ。メイドはご主人様達のいない間、家でお仕事をすることもございますので。それは信用されていませんとできないことだと私は思いますが……いかがでしょうか?」

 今更ながらメイドの基本情報をぶち込んできた。

「そうかい――なんかアイデアでも出ればいいんだけど」

 記憶の金庫を開けても、そう簡単にいい<アイデア>は<ふって>はこなかった。

「なんじゃ主人様、あやつのことが好きなのか?」

「……はぁ? なんでそう……」

「そ、そうなのですかご主人様!?」

 話は遮られ、驚愕のフィアから両肩を掴まれて首が上下に振られた。

 それはある意味で<ふって>はきた。

<愛では>ない。ただ放ってはおけなかった。これだけの人の中から出会った縁をみすみす手放すほど楽な道を歩む気などさらさらなかった。

「や、やめろフィア……はぁ、ったく」

「気が動転しまいまして……その、お許しください」

「なんで気が動転するんだよっ! ノロもノロだぞ」

「わ、ワシも揺れる~のじゃ~」

 位置の問題かノロの方がダメージはでかいようだ。ざまぁみろとショウは思った。

「ナナイのことはあとで考えるとして、早く行こうぜコロシアム」

「あ、待ってくださいご主人様~わ、私も考えますから~」


「コロシアムっていえば、あれだよな?」

「戦いじゃぞ。主人様にもいい体験になるじゃろ」

 体験という意味深なことがノロの口から出たが、今はそれよりもあのデカデカと円を描くように作られたコロシアムと向き合った。

 だがそれよりも気になる<白>が目の前にあった。いや、いた。

<純白>はどんな色よりも目立ち、どんな色とも混じり合いそうで、間違えた道に逸れたのならその色が戻ることはないだろう。

鎧というものに身を包んで……。

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