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メイドBook  作者: やまは
オーメリス王国確率変動中
21/131

二章 21冊目 天運

 あれから三日。<ミネア>から歩を進めるショウたちは、次の目的地にもうすぐ到着する時間が迫っていった。

 この三日間。ショウはただ歩いていたわけではない。強くなるための修行の日々が始まっていた。

 朝はフィアとの短剣の特訓。昼間はノロと歩きながらの魔力のコントロール。夜はリーエとの魔法を出す場所を変える特訓。

 魔法を出せる場所は手だけとは限らない。それをケレスに風呂で聞いた。あの時の手はブラフであり足から出したと。

「どうだ? 大分馴れてきたんだよ」

 自信満々に特訓の成果をフィアに見せた。足のつま先からは、炎魔法が飛んでいき草原に小さな焦げあとができた。

「そのレベルでしたらトラップ魔法も足から出せそうですね」

「そうなんだよ。足元に設置するのが楽になったんだ」

 今まででは手に魔力を溜め、それを地面に設置していたが今では足に溜めることによって避けながらでも地面に設置できるようになった。手がフリーになったことでできることが増えた。

「あとは剣の腕じゃな。これは時間がかかるので仕方のないことじゃが」

 ショウは剣を人に振ることがなかったのだがそれもこの三日少しずつだが着実に。

 まだまだ隙が多すぎて使えるものではなかったが。

「これからです。たった三日間でなんとかなるようなものではありませんから」

「そうだな……おっ! 見えてきたぞ」

 草原の丘を越えるとそこには城と一際大きい丸い建物が目立つ。ミネアとは比べ物にならないほどの建物の密集率は遠くからでもよく分かる。

<オーメリス王国>。通称、博打国家。

「ご主人様は<運>に自信のほどは?」

「うん?」

「運じゃ運」

「……zzz」

 ショウとフィアの出会いはある意味天運。それは出会いの全てに言えることである。


 巨大な城壁はショウたちの何倍もある大きさで出迎えてくれた。

 そんな城壁よりも一番の視線が集めているのはショウ達だったが。

「あ、観光客の方で?」

 いきなりショウたちに話しかけてきたのはチラシを大量に持った男。

 そこに数人いる者たちと同じタスキをぶら下げていたので、チラシ配りみたいなものかと周りの様子からそれはうかがえた。

「そうだけど?」

「ではこれどうぞ! 一月ひとつきの大まかな行事を詰め込んであります。……あ、どうぞどうぞっ!」

 男はあっという間にショウたちから去っていった。すぐさま別の観光客を見つけたようだ。

 そのチラシには<オーメリス王国>大賭博祭りと銘打たれた文字がデカデカと目を引きつける。

 数字と共に言葉の羅列がぎっしりと埋め尽くされている。

「今日っていつだ?」

 それは予定表だとすぐに分かった。今がいつかなんてショウは考えたこともなかった。何曜日かなんてそんなものがあるのかさえも知らない。

 朝が来たらフィアが起こしに来て、夜になったらフィアに休むよう促される。それだけのことなのだ。

「今日ですと……あれ? 明日は凄いですよ」

 ショウの物を奪うとはメイドとしてどうなのか。それ以上に目を引き付けるものがフィアにはあったのだろう、その声はよく弾んでいた。

「明日は<王覧試合>のようです。しかも<コロシアム>の精鋭8人によるトーナメント戦のようですね」

 聞きなれない単語を連打でお見舞いしてくる。

「コロシアムってあのデカい丸いやつだよな? 王覧試合ってことは王様が見に来るってことか」

「え、ええ。良くお分かりになりましたね。初めてのはずですが?」

「いや、なんとなく」

 ショウには全てが初めて。だが記憶の方はというと、ある建物とそっくりに見えるものが建っており、言葉のニュアンスというものでそれはなんとなくだが分かっていた。

「戦いの勉強にはちょうどよいのぅ」

「そうですね。ひとまずチケットを買いに行かなくては。いきますよご主人様!」

「引っ張るなって、リーエ背負ってんだぞ」

「リーエ様は落ちないのでご安心してください」

 この三日でリーエの役に立つのか分からない凄い特技が分かった。

 腕の力だけでしがみつきながら眠るというありえない今のリーエの現状。

 おんぶにつきまとう両手の条件。それはリーエによって消えて、重さもないという何でもありな常識はずれっぷり。

 その奇妙な男に目を奪われるのもうなずける。かめを乗せるおまけつきで。


 城門を抜けるとそこは今までにないほどのスケールの差をまざまざと見せつけてきた。

 街中で賭け事は溢れかえり、そこらじゅうで金銭のやり取り。歓喜と悲哀の雄叫びがこだまする。

 カジノ、魔力ボート、魔牛競争などではそれと合わせて歓声が聞こえる。

「こんな当たり前に賭け事なんてしていいのか?」

 初めてそれを見るならば、そう思わざるを得ない。

 それでいても品性が落ちた者がいないし、汚らしい格好の者など石畳の通りを数か所見たショウの目に飛び込むことはなかった。一本入った路地裏にはいるかもしれないが。

「賭け事に対する罰則は特にありませんし……なぜそう思われたのでしょうか?」

「いや……なんとなく」

 なんとなくが多すぎる。

「そうですか。お金に対する価値は人それぞれ違いますし、賭け事で手に入れたものを嫌うという方も確かにおりますが……ご主人様は抵抗があるのでしょうか?」

「いやいやそういうわけじゃないけどさ」

「ワシは好きじゃぞギャンブル」

「……わたくしもすきです~zzz」

 人外二人組は大好きのようだ。

「おいっ、そこのわけわかんない主人さんよ」

 路地裏から現れた少女の突き出してきた一枚の紙切れを、ショウは疑うこともなく受け取ってしまった。

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