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メイドBook  作者: やまは
たった四日間の出来事
15/131

15冊目 Mind in フィア

 夜も更けて来た中、小さなメイド、リーエはようやく落ち着きを取り戻した。

「取り乱しましたことをお許しください……」

「別にいいって――それより座ったら?」

 ショウはソファーに座っていたが、リーエは対面といめんで立っている。

「一応メイドですから。お構いなく」

「……そういうとこはホントフィアそっくりだな」

「そう言っていただけますと光栄ですっ!!」

 リーエの声は大きくなった。両手を腰に当てて誇らしそうにポーズをとった。

「フィアとの関係とか教えてくれない?」

 ショウはフィアについて聞きたかった。フィアを知る人物と会えたこの機会に。

「ではお一つだけ。自己紹介でも――私の名は<リーエ・シーラー>。一にお姉さま。二にお姉さま。三にお姉さま。お姉さまを敬愛し、親愛し、愛しています。お姉さまはLoveでありLike。この世の全てがお姉さまであり、私の全てはお姉さまのためにあるのです。お姉さまこそが私の目指す道。お姉さまのためならばこのリーエ。お姉さまのご主人様に一生を尽くす所存です。メイドリーエこれからどうぞよろしくお願いいたします」

 ながったるい自己紹介のほとんどがフィアへの愛が語られた。なんとなくショウはリーエのヤバさを痛感した。

「俺はフィアについて聞いたんだけど?」

「お姉さまのことは口が裂けても。たとえこの身がどうなろうとも教えるつもりは毛頭ございませんっ!」

 そっぽを向いて断られた。ころころと表情や声色が変化するのはフィアとは違うところであり、面白いところでもあった。

「なら直接聞くか……」

 ショウはベルを鳴らしてフィアを呼びだした。目の前にちゃんとフィアは現れた。あれから使っていなかったから少し心配していたが、特に問題なかった。

「ご主人様どうされ……ちょ、ちょっとリーエ様!?」

「はわぁ~おねえさま~。おねえさまの匂いです~」

 呼び出されたフィアに一瞬のうちに抱きついたリーエは、頬ずりをかましながらフィアの体をくまなくまさぐっていた。その様子にショウは呆気にとられた。

 フィアに一発頭を叩きつけられてリーエの行為は終わりを告げた。

「い、いたいですよ、お姉さま~」

「いきなりこのような行為をなさるリーエ様に正義の鉄槌を下しただけですっ!」

「いいではないですかっ!何十年ぶりに会えたと思ってるのですかっ!!」

「だからといって、ご主人様の前で行うことではありませんっ!!」

 ショウにとってこんなに気持ちが高ぶっているフィアを見るのは久しぶりだった。

「アハハハ、お前らおもしろいぞ。もっとやれ~」

 ショウは自然と笑い声が出た。楽しかった。フィアとリーエの様子をずっと見ていたかった。

「はいっ!リーエにお任せですっ!!」

「いたしませんっ!」

 もう一発フィアから鉄槌を受け取ったリーエだった。


 フィアとリーエの言い争いは終わり、ようやく本題へと突入できた。今度はリーエもソファーに座った。それはフィアに促される形で。

<リーエ>は、フィアの教え子の一人で今はメイド長としてとあるところで働いているとのこと。愛嬌のある小さいからだはこれ以上成長しないらしい。フィアとそっくりな姿なのは好きが高じてのこと。

「リーエ様は可愛らしいのですから、露出を増やしてもよろしいですのに……」

「お姉さまがそうなさるのであれば……」

 リーエは顔を赤くしてウズウズしながらフィアを見ている。

「わ、私のことはいいのですっ!!それよりもどうしてこちらに?今は確かメイド長として働いておられるはずでは?」

 焦りを見せたフィアは話題を変えてきた。

 メイド長とは、雇われているメイドをまとめ上げる一番偉いメイドのこと。

 メイド長がいるほどメイドがいるところなどそうない。そのメイド長というのだからリーエの地位はとても高い。シンたちの師匠というのもショウは納得できた。

「えーっと、実はお暇を出されまして……あはは」

 リーエは頭を後ろに当てて乾いた笑いを上げた。

『お暇って何?』

 ショウはフィアに質問した。こそっと。

『クビ。つまりは解雇されたということです。もしくは休暇。お休みを貰ったということですね』

「わぁわぁ、クビというわけではなく休暇と言う意味ですのでご心配には及びませんよお姉さま」

「心配などしておりません。私の大事な教え子ですから」

 フィアはそう言った。それはとても重いものを含んだ言葉のようにショウは感じた。

「この時期ですので、<魔牛>でも見に来ようかと思いましてこちらに…ケレス様とシントウアツの挨拶も兼ねて」

 リーエの目的は大体わかった。ショウも聞いておきたいことがあった。

「朝、会ったけど覚えてる?」

「朝?いえ、覚えてはおりませんが?」

 とぼけた様子はなかったので本当に覚えていないように見えた。

「つまりあれは寝ぼけてたってことか?」

「な、なにかご迷惑なことを?」

 震える声は恐怖を物語っていた。今はフィアがいる。これだけで説明がついてしまう。

「……まあ、特になかったよ」

 ホントはあったのだが震えるリーエを前にほんとのことは言えなかった。

「お、お姉さまにお聞きしてもよろしいですか?」

「答えられる範囲だけですよリーエ様」

 リーエはいろんなことを聞いていた。ショウのこと。ここにいる理由。そしてこれからのこと。

「……大体は分かりました。ですがなぜなにも言わずに消えてしまったのですか!私たちが、ぐすっ……どれだけ……ぐすん。し、しんぱいしたとおもったのか……」

 ショウはリーエにとってフィアという存在がどれほど大きいのかが分かった。だから黙ってその様子を見守ることしかできなかった。

 リーエの溜まっていたものが破裂したようだ。その涙は止まらず嗚咽混じりの声で泣きじゃくっていた。

 メイド服をただ濡らすリーエをフィアは全て受け止めていた。


 感情を破裂させたリーエをフィアが抱きしめてから数時間。

「……リーエ様、いつまで触るつもりでしょうか?」

「う~ん、もう少しこのままで……お姉さま頭なでなでしてくださ~い」

「はぁ~これだから嫌だったのです」

 リーエはフィアの胸元に顔を擦り付けながら甘える声で要求した。フィアはため息をつきながらそれに応じている。飽きもせず何時間もただフィアに体を預けていた。

「なんだこれ?」

 ショウは完全に場違いなのが分かっていた。

「……俺、寝るから。あとはごゆっくりどうぞ~」

「ご、ご主人様!?」

 ショウはフィアの声など無視して部屋を出ると、カギを閉められてた。

「リーエ様!?お、おやめ……」

「おねえさま~~!!」

 ドア越しに部屋の物音がいっそう強くなった。好奇心より眠気が勝っていたショウは部屋に戻って眠りに落ちた。ノロと一緒に。


 四日目の朝は、館を揺るがすほどの足音から始まった。ドドドドと地鳴りのような音でショウは飛び起きた。

「な、なんだ!?」

 その音は瞬く間に消えて館は静けさに包まれた。

「ワシらも行かんとのぅ――フィアを呼んでくれ主人様」

 ノロに言われるがまま指示に従った。部屋にフィアがいないことに気付いたのはベルを鳴らす直前だった。

「ご、ご主人様~も、申し訳ありませんっ」

 フィアは現れるや否や謝ってきた。珍しくボサボサになった髪に、シワのついた昨日と同じメイド服。背中にはリーエを背負っていた。

 眠っているのかリーエの顔はどこか満足げな表情を浮かべ、夢心地のようだった。

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