・・・本当に、警戒心の薄い方ですね。
夕食の時間。
既に席に着いているサファイアと、フィン君の二人。わたしが最後だ。
「では、神父様もいらしたことですし、食事に致しましょう」
サファイアがにっこりと微笑む。
「わーいっ! 頂きまーふっ♪」
相変わらずの豪華な料理に、早速がっつくフィン君。とても元気そうだ。安心した。
そして、祈りの言葉や十字を切る仕草に反応が無いのも相変わらずで・・・サファイアが優雅に食事を始めた。
「神父様、ワインは如何でしょうか? 昨夜のものより、辛口のワインをご用意しました」
「あ、頂きます」
返事をすると、早速給仕係がトポトポとグラスにワインを注ぐ。広がる爽やかな香りは昨日の赤ワインではなく、淡く黄緑がかった透き通る白ワイン。
「先程、村の方から頂いたワインです」
「ああ……先程の・・・」
気まずい。態度の悪かったあの若者のせいで、非常に気まずい。フィン君の厚意だと聞いたにもかかわらず、彼のことを「鴉のように不吉だ」と、なんのてらいも無く言い捨てた若者。
フィン君の態度は全く変わらず、食事に夢中だが・・・もしかして、聞いていないのだろうか? いや、しかし、城代として立ち会った執事の彼が感謝と謝罪をフィン君へ伝えると言ったのだから、ちゃんと伝わっている筈だが・・・
「どうかされましたか? 神父様」
「あ、いえ……」
もやもやとした気分でグラスを呷ると、スッキリとした木の香りが鼻に抜けた。
「……美味しい」
「それはなによりです」
にっこりと微笑むサファイア。
「さあ、お代わりをどうぞ?」
美味しいワインに食事が進み・・・
「?」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
※※※※※※※※※※※※※※※
「…………」
ふっとテオドールの身体から力が抜け、カクンと彼が椅子に凭れる。
「あれ? 寝ちゃったの? テオ」
フィンが食事の手を止め、テオドールを見やる。
「・・・本当に、警戒心の薄い方ですね」
「ねぇ、大丈夫なの? これ」
「ええ。朝までぐっすり熟睡でしょう。人体に然して影響はない筈です」
フィンの質問に淡々と答える女声。
「ふぅん・・・」
「このキノコはアルコールと一緒に摂取すると、睡眠薬と同じ作用が出るのです」
レガットがテーブルのキノコ料理を見下ろして言った。
「さあ、神父様をお部屋へ」
こうして、使用人達がテオドールを静かに部屋へと運んで行った。
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