表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/34

女は緩く溜息を吐いた。

 分厚い雲が降らせる雨のせいでひやりと薄暗い城内を、フィン君の案内で食堂へ。

 中へ入ると、既にドレス姿の若い女性がテーブルへ着いて待っていた。


 白い髪に青白い肌、美しい顔立ち。

 なぜだか確信があった。

 この人物はきっと・・・


「このレインディア地方を納める領主、サファイア・レインディア様です」


 後ろに控えた執事が女性の紹介をした。


「初めまして。神父様」


 サファイアがにっこりと微笑む。

 しかし、その瞳の色(・・・・・)は、サファイア(・・・・・)という(・・・)名前には(・・・・)そぐわない色(・・・・・・)をしている。


 挨拶をされたのだ。挨拶を返さなければ。


「わたしはテオドール・クレシェンドと申します。本日のお招き、大変感謝しております」

「いえ、雨が降る前に来て頂いて、よかったと思っておりますわ。神父様」

「ええ。わたしも・・・こんな雨に打たれていたかと思うと、ゾッとします。本当に助かりました」


 旅を続ける上で一番気を付けなければいけないのは、天気だ。

 雪は勿論、雨にも注意が必要。

 弱い雨でも侮れない。

 夏でも、冷たい雨に長時間打たれると、然程(さほど)気温が低くなくても体温が奪われ、低体温症で死んでしまうことがあるからだ。


 そして、雨が長く続けば、降り続いた分だけ、地滑りや川の氾濫などを引き起こす危険性が高まる。

 人間は、そういった自然災害には常に勝つことはできないのだろう。


「数日の間、ご迷惑をお掛けします」

「いえ、神父様をお迎えできて、嬉しく思います。至らぬ点が有りましたら、どうぞ遠慮無く仰ってください。では、食事に致しましょう」


 サファイアの言葉で、高価そうな皿に乗った料理が運ばれて来る。


「わ~い! 頂きますっ!」


 言うや否や、凄い勢いで料理を口へ運ぶフィン君。


 昼食を食べられるのかと心配したのが、馬鹿らしくなる程の食べっ振りだ。


 唖然とするわたしを余所(よそ)に、数日前からの滞在で慣れてしまったのか、サファイアはマイペースに食事を続けている。


「どうかされましたか? 神父様」

「い、いえ。なんでも・・・」


 首を振り、小さく祈りの言葉を口にしてから、食事へと手を付ける。


 卵やバターの使われた白くて柔らかい贅沢なパン、透き通った琥珀色のコンソメスープ、新鮮な野菜とチーズのサラダ。どれもこれもが美味しい。


 当たり障りの無い会話。


 ゆったりと食事をするサファイアの手付きは、とても優雅だ。


「神父様は、どうして旅を?」


 にこやかな質問に、ヒヤリとする。ゴクンと野菜を飲み込み、


「……人の役に立つ為、です」


 答える。と、一瞬だけ、


「……それは、素晴らしいことですね」


 キラリとサファイアの瞳が鋭い光を帯びたように見えた気がした。


「ええ。ありがとうございます」


※※※※※※※※※※※※※※※


 フィンとテオドール神父が食事を終えた食堂。


 スッと背筋を伸ばしてテーブルへ着く女と、憂い顔の執事が残っていた。


「やはり、教会関係者は苦手です」


 感情を窺わせない平坦な声が言う。


「そうですか・・・」

「ですから、なるべく早く出て行ってもらいたいものですね。神父には」

「……はい」

「それも、天気次第なのですが・・・」


 窓を叩き続ける雨に、先程のような激しさはないが、止む気配も感じられない。


 この分だと、道も大層泥濘(ぬか)るんでしまっていることだろう。

 太陽が出たとしても、道が乾くまでと言って、神父が城への滞在を延ばす可能性もある。


「……そうですね」

「・・・」


 執事の返事に、女は緩く溜息を吐いた。

 読んでくださり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ