食い意地の張った少し抜けた子供。
「フィン君は今、この城のお客さんなんだよね?」
「うん、そうだよ♪」
にこにことご機嫌に答えるフィン君。
「誰と一緒に来たのかな?」
「ボクの使用人」
使用人? この子はどう見ても、貴族や上流階級の子には見えないが・・・
「君は商人の子かい?」
「? 違うよ。ボクが、商人なんだよー。親は元からいないしさ」
「・・・」
なんとびっくりっ!? フィン君は孤児だったのか。それならば、こんなに食い意地が張っているのも道理だろう。こう見えて彼は、とても苦労しているのかもしれない。
しかし、フィン君にはこう・・・孤児特有のスレた感じや抜け目のなさが全く伺えない。というかむしろ、とても抜けているように見える。
彼はどう控え目に言っても、一人で生きて行けるタイプには見えない。
きっと、余程確りとした保護者の人が付いているのだろう。
「なにを売っているのかな?」
「ナイショ」
クスリと笑うフィン君。
「え?」
「それはねー、お客さんにしか教えないことにしてるんだ♪」
「わたしは客にはならないのかい?」
その質問をした瞬間、フィン君の黒い瞳がわたしを捉える。深い深い、黒の瞳が・・・
「…………うん。ならない」
沈黙は数秒。静かな、けれどキッパリした断言。
「ボクのお客さんになるヒト達はねー、みんな切実なんだよー? 喉から手が出る程に欲しいのに、そのクセ、叶わないことを知っている。諦めと渇望。手に入らないのに…ううん。手に入らないからこその、羨望と執着を見せる。あなたは、そんな感情とは無縁でしょー? ・・・まだ、ね」
淀み無く語られたのは、思いもよらぬ言葉。
食い意地の張った少し抜けた子供。そんなイメージが、一瞬にして崩れる。
「君は・・・」
「? なーに? 飴の おにーさん」
・・・やっぱり、気のせいだったか?
「幾つかな?」
「え~? 歳なんて、数えたことないからわかんないんだよねー。ボクって、幾つに見える?」
にこにことフィン君の質問。
孤児の多くは、誕生日はおろか正確な年齢さえもわからないことが多い。フィン君が自分の年齢をわからなくても不思議はないのだが・・・
「君、計算はできるのかい?」
自称、商人をしているのだ。できない筈はないと思うが・・・果たして、この抜けている子に本当に商売ができているのだろうか?
「? ボクにできないことは、できるヒトに頼めばいいんだよっ☆ボクの使用人は、なんでもできるんだからねっ♪」
ふふんと胸を張るフィン君。
思いっ切り他力本願っ!?
いや、まあ、ある意味真理ではある。
しかし、納得はできない。
「あ、おにーさんの名前は?」
のほほんと聞かれ、まだ彼へ名乗っていないことに気付いた。
「ああ、わたしの名前はテオドール・クレシェンド。テオでいいよ」
「わかった。テオねー? テオはどうして旅をしているのー?」
人懐っこくにこにこと聞くフィン君。
「そうだね・・・わたしの旅の理由は、人の役に立つ為だ。その為の旅だよ」
実際には、まだ役に立ったことはないのだが・・・そのことは伏せておく。
「それって、楽しい?」
「は?」
「だからー、その、人の役に立つことって、楽しいのか聞いてるのー」
思わぬ言葉。初めて聞かれた。
人の役に立つことは、無条件で素晴らしいことだ。楽しいか楽しくないか? そんなことは、二の次だ。考えたことすら無い。
「ええと、人に拠ると思うけど・・・」
我ながら苦しい答えだ。
「それもそうだねー」
しかし、あっさりと納得するフィン君。
「あ、そうだ。そろそろお昼ご飯なんだって♪ボクが案内するから、ちゃんと付いて来てねー?」
そろそろ、昼食?
「・・・フィン君、昼食はちゃんと食べられるかい?」
結構な量の飴を食べた後だ。少し失敗した。昼食のことを失念していた。というか、あの量の飴を一気に食べるとは思っていなかった。
「うん♪美味しいご飯は別腹だよ~?」
「それは、甘い物は別腹という言葉と間違えていないだろうか?」
「そうだっけー? まあいいや。食堂はこっちだよー」
読んでくださり、ありがとうございました。