え? ちょっ、はあっ!?
四人が村へ着くと、なにやら騒がしい。マイヤーの家周辺へ村人が集まっている。
「だからっ、クランを誘拐したのは、昨日村に来た奴なんだよっ!? ソイツらが城に連れ去ったんだっ!? 間違いないっ!」
その真ん中でアホな主張をしていたのは、
「これからみんなで、クランを取り戻しに行こうっ!? みんなで一致団結すれば、吸血鬼なんか恐くないっ!!!」
案の定、ゴロツキ未満Aだった。
ヴァンは溜息を吐き・・・
「そこのゴロツキ未満A。邪魔です。今すぐ退きなさい。これでは、折角クラン君が帰って来たというのに、家へ帰れない」
声を張り上げた。
一瞬の静けさの後、村人達がクランの帰還を口々に祝う。ゴロツキ未満A以外の全員が。
「え? ちょっ、はあっ!?」
そして、戸惑うゴロツキ未満Aを余所に、家から飛び出して来たマイヤー夫人と娘のネロリがクランを囲み、涙する。感動の再会。家族バージョン。
今度はヴァンも、邪魔する理由が無い。
さて、帰るかと踵を返そうとしたヴァンを、
「ありがとうございますっ! 本当に、なんと言ってお礼を言ったらいいのかっ・・・」
マイヤー夫人とネロリが手を取って引き留めた。
「いえ、自分への疑いを晴らしただけです。お気になさらず」
ヴァンは素っ気なく返す。が、
「ありがとうございます。さ、どうぞ。大したおもてなしはできませんが、上がって行ってください」
マイヤー夫人がキラキラと見上げる。
「いえ…」
「遠慮しないで、是非」
更に、娘のネロリがにっこりと微笑んだ。
「待ていっ!?!?」
五月蝿く声を上げる人物を、
「あなた、まだいたのですか」
ヴァンが冷たく見やる。
「俺を無視するなあっ!?!?」
ゴロツキ未満Aの怒鳴り声に感動ムードがぶった切られたのを幸い、
「では、私はこれで失礼します」
するりとマイヤー夫人から手を引き抜き、ヴァンはバックレようとした。しかし、
「待て待て待てっ、待ていっ!?」
ゴロツキ未満Aが更に声を上げる。
「なんです? ゴロツキ未満A。私も暇ではないのです。三十字以内で簡潔に纏めなさい」
「ウルサいウルサいウルサいウルサいっ!!! お前がクランを拐った犯人に決まってるっ!?」
三十字は越えている。
「五月蝿いのはあなたです。全く・・・そこまで言うのでしたら、証拠は? 勿論、あるのでしょうね? 私を、犯人扱いするに足る証拠。さあ、出してもらいましょうか?」
冷ややかな笑みを浮かべるヴァンに、たじろぐゴロツキ未満A。
「っ……お、お前がクランを連れて来たのが、証拠だっ!?」
苦し紛れにしてはいい線を突くゴロツキ未満A。しかし、
「では、クラン君に証言してもらいましょうか」
溜息を吐くヴァン。本当に馬鹿馬鹿しい。そもそも、私が子供を探すことにしたのは、マスターが探せと言った(厳密にはアイコンタクトだが)からだ。元々、ただの通りすがりの私達には一切関り合いは無いのに・・・と。
「い、いいだろうっ! さあクラン、言ってやれ!」
「…あ、えっと・・・まずは、心配と、ご迷惑をかけてごめんなさい。この場を借りて、謝らせてください」
そう言ってペコリと頭を下げるクラン。
なかなかに礼儀正しい。どこぞのゴロツキ未満も見習うべきだと、ヴァンは感心した。
「ンなこた、どうでもいいんだっ! コイツが犯人なんだろ? 大丈夫だぜ? 俺が付いてるからな! 怖がらなくていいから、本当のことを言えよ。な? クラン」
ヴァンを指差しながら、クランへと近寄るゴロツキ未満A。
「いえ、その…」
困り顔で言い淀むクランに、
「どうした? 言ってみろよ? ほら!」
勢い付くゴロツキ未満A。
「森に熊がいて、恐くて出られなかったのを、この人に助けてもらいました。今更ですが、助けて頂いて、ありがとうございました」
ペコリとヴァンへ頭を下げるクラン。
「どうだ! お前が犯人…って、へ?」
ポカンとアホ面を晒すゴロツキ未満A。
「いえいえ、私もクラン君が無事でよかったと思っています」
そう。この子が死んでいたら、マスターと私の濡れ衣を晴らすどころじゃなかった…と、ヴァンはクランへ微笑んだ。
読んでくださり、ありがとうございました。
ヴァンは案外めんどくさがりです。