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ヴァンさんのことが心配なのです。

「準備ができました」


 と、行方不明のクラン捜索に必要としてヴァンが用意させた荷物を運んで来たのは、少しふっくらした中年女性。マイヤー夫人。


「ありがとうございます、奥様。できれば、お嬢様のお顔を拝見したいのですが」

「…あの?」


 戸惑うようなマイヤー夫人に、ヴァンは余所者へ娘を会わせることへの戸惑いだと解釈する。


「母さん、ネロリを呼んで来なさい」

「でも・・・」

「クランはネロリに似ているから」

「……はい」


 渋々という感じで、奥へ引っ込むマイヤー夫人。


 ゴロツキ未満Aのじっとりとした視線をウザく感じた頃、十代後半の少女がおずおずと現れた。


「少し、失礼しますね?」


 ヴァンは一言断ってから、マイヤーの娘の顔を記憶する為にじっと観察する。

 ヴァンへ見られていることへの緊張からか、娘の顔がサッと赤くなる。


「ありがとうございました、お嬢様。では、マイヤーさん。私はそろそろクラン君捜索へ掛かります」

「わかりました。お願いします」

「お、叔父さんっ」


 ヴァンが荷物を背負ってマイヤー家から出ると、外はもうすっかり夜になっていた。

 まだ、月は出ていない。

 日暮れの名残で西の空がやや白んでいるが、完璧に暗くなるのも時間の問題だ。

 暗くなってからでは遅い。今のうちに、松明へ火を点ける。灯りの確保は重要だ。


「クラン君は、何処へ・・・」


 ヴァンが小さく呟くと同時に、バッと強めの風が吹き付け、首の後ろで一(くく)りにしている長いハニーブロンドが揺れ(なび)いた。


 そして・・・これで、単なる子供の家出だった場合は八つ当りにゴロツキ未満Aを殴ろう。私がここへいる原因は奴だ。奴ならば、殴っても全然心が痛まない。そう思いながら、ヴァンは村の外へ向かって歩き出す。


 すると、


「あの、僕が案内しましょうか?」


 ヴァンの後からマイヤー家を出たラルフが切り出した。やはり、人がいいらしい。


「いえ、村の方が見付けられないのですから、先入観は無い方がいいと思います。なので、(しばら)くは適当に動こうと思います」

「ああ、それもそうですね。でも、少し心配なので、僕もあなたへ付いて行ってもいいですか?」


 ラルフが、心配そうな顔で主張する。


「ええ。お願いします」


 彼は、ゴロツキ未満Aと違ってヴァンの邪魔をすることは無いだろうと許可を出す。

 それに、二人の方が子供を発見したときに都合がいい。と、そう思いながら・・・


※※※※※※※※※※※※※※※


 ディナーの時間。


 朝食とランチは、私的な事情でお客様をお構いできなかったのだから、夕食は失礼が無いようにしなくてはなりません。そう思って、気合いを入れてディナーへと臨んだというのに・・・


「フィンさん」

「はい、なんでしょうか? サファイア様」

「ヴァンさんのお姿が見えないようですが、本日はご一緒ではないのですか?」

「あ、はい。ヴァンは今、ボクの所用で出掛けてもらっています」


 出掛けてって・・・


「え? 外へ・・・ですか?」

「ええ。そうですけど…それがなにか?」

「そんなっ!? どこへっ!?」

「え~と、近所の村にですけど・・・どうかしましたか? サファイア様」


 不思議そうなフィンさんの声で我に返る。


「だ、だって、外はもう夜ですわ。ヴァンさんは、女性ですのに……こんなに暗くては、外は危ないでしょう?」

「ヴァンなら平気ですよ。伊達にボクと二人で旅をしているワケじゃありませんからね」


 能天気なフィンさんの言葉。


「ですけどっ・・・やはり心配ですし・・・そうですっ! ヴァンさんを迎えに行かせましょう!」


 わたくしの前からいなくなるだなんてっ・・・そんなの、嫌だわ。


「そんなの悪いですよ。大丈夫です。朝にはちゃんと帰って来ますから」


 帰って来る? 此処へ? それなら・・・


「そう、ですか・・・では、今晩は城門の前に門番を待機させておきますね?」

「え?」


 フィンさん。あなたにまでいなくなられては、わたくしが寂しいのです。

 あなたは、逃がしません。

 あなたが此処へいれば、ヴァンさんは必ず、この城へ…わたくしの下へと帰って来るのでしょう?


「でも」

「ヴァンさんのことが心配なのです。これくらいは、させてください」

「……わかりました」


 フィンさんは、小首を傾げながらも頷いた。


 そして、進む夕食。


 今日は、いつも美味しく感じる血入りのワインがあまり美味しく感じない。


 どうして、かしら?


 ヴァンさんのことが心配、だから?


 それとも・・・

 読んでくださり、ありがとうございました。

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