流すなっ!?!?
一家総出で捜索の準備が開始される中、
「…いい気になるなよ」
ゴロツキ未満Aの吐き捨てるような低い声。粘り気のある視線がヴァンを睨む。
ウザいとは思うが、無論ヴァンは気にしない。
「・・・あの」
「はい。なんでしょうか?」
ここまでヴァンを案内してくれた、人のよさそうな青年がヴァンへ話し掛ける。
「ええと、その……僕の名前はラルフ・ローダンセと言います」
と、彼が自己紹介を始めた。
「そうですか」
「わ、わたしは、この村の金庫番でケビン・マイヤーと申します」
ラルフへ触発されたのか、家主の男性まで早口で自己紹介をし始めた。
ヴァンに、村人AやB呼ばわりされるのが嫌だったのかもしれない。無論、ヴァンは無礼でない礼儀正しい人へは、それなりの対応をするのだが。
それにしても、金庫番・・・か。金庫番と言えば、村人から預かったお金を管理する者のことだ。小さな村とはいえ、数十人分のお金となれば、それなりの金額になる筈だ。それならば、誘拐を疑うのも判る。しかし普通は・・・
「村長とは兄弟ですので、わたしが金庫番を任されております」
ヴァンの疑問が顔に出ていたのか、捕捉の説明をするマイヤー。
一族での村の運営、ね。まあ、追及しても面倒なことになるのは必至なので、どうでもいいこととして、ヴァンは疑問を放置する。
「では、クラン君の特徴は?」
「え? あ、クランの特徴、ですか・・・」
自己紹介をするという流れをぶった切っての質問。勿論、故意にだ。
ヴァンには馴れ合いをする気は毛頭無い。
「ええ」
「わたしと同じ栗色の髪に、青灰色の瞳で・・・身長が、これくらいです」
マイヤーが自身の太腿辺りへ手を翳す。
「顔は、ネロリ…娘と似ています」
「では、後程娘さんのお顔を拝見させて頂きます」
「・・・え、ええ」
返事に微妙な間があったな? と、ヴァンが軽く疑問に思ったときだった。
「やっと本性を出しやがったかっ!? そうやってネロリを誑かす気だなっ!!!」
勝ち誇ったようにゴロツキ未満Aが叫んだ。
ヴァンには意味がわからない。
「とりあえず聞きますが、顔を見るだけで、どうやって誑かすのですか? 普通に考えたら、無理でしょうに?」
「……いや、あなたなら…」
ぽつんとラルフが呟いた。
「はい?」
「あなたの顔は、その……かなり、というか、非常にモテると思います」
「・・・」
ヴァン自身は自分を男だと言った覚えは無いのだが、ここは田舎だ。女性が男装をすることなど、有り得ない! ということなのだろう。
別にいいか。と、結論付けるヴァン。
「興味ありませんね」
しれっと答える。と、
「「「・・・・・・・・・」」」
微妙な沈黙が落ちた。そして、
「スカしてンじゃねぇぞコルァっ!!! 俺がモテる為にどンっだけ苦労してると思ってンやがるこの野郎がっ!!!」
ゴロツキ未満Aの、ある意味悲痛な叫びに、
「本っ気でどうでもいい。そして、見るからにモテる筈も無し」
ぽろりとヴァンの本音が零れた。
「ンだと手前ぇっ!? 調子こいてンじゃねぇぞ手前ぇこの野郎っ!!!」
ゴロツキ未満Aが凄い形相になり、ヴァンへ掴み掛かろうとして、
「やめんかっ!? す、すみません」
あっさりとマイヤーへ止められる。
「いえ。とりあえず、お子さんの行きそうな場所へ心当たりは?」
「流すなっ!?!?」
「いい加減にしろっ!」
「っ!?」
折角大人の対応をしてあげたというのに、なんとも空気の読めない奴だ。と、ヴァンはゴロツキ未満Aへと呆れる。
「それで、どこなのでしょうか?」
そして、流した。
「ええと……近くの森にはよく遊びに行っていたようですが・・・」
「森に狼や熊は出ますか?」
ヴァンの質問に、マイヤーの息が詰まった。
「奥の方へ行けば、出ると思います」
ラルフが苦い顔で答えた。
そこそこ厄介だが、まあ最悪の事態にはなっていないだろう。と、ヴァンは算段を付ける。
「わかりました」
読んでくださり、ありがとうございました。




