表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/34

アホにアホと言うことの、なにがいけないのですか?


 田園風景広がる田舎のど真ん中。遠くにぽつんと一つだけ、立派な城が建っている。


「ねー、ヴァン。あの城ちっさくなーい?」


 ローティーンに見える旅装束の子供が、もう一人の旅の連れを見上げて言った。


「マスター。アホですか、貴方は? 城が小さいのではなく、我々と城との距離が遠いのです。さあ、キビキビ歩いてください。夕方までには着きたいのですからね」


 子供をマスターと呼んだのは、黒い執事服を(まと)った人物。マスターと呼び掛ける割には、呆れを全く隠すことなく、歯に衣着せぬ物言いをする。


「ヴァン~、主のボクを捕まえて、よくもアホだなんて言えるよねっ? 全くもうっ」


 ぷぅと頬を膨らませる子供。


「はい。私は正直なのです。正直であることは美徳なのですよ? マスター」


 執事服は意にも介さない。


「ヴァンの毒舌~」

「毒舌とは心外ですね? 私は単に、思っていることを素直に垂れ流しているだけなのですから」

「・・・つまり?」

「アホにアホと言うことの、なにがいけないのですか? マスター」


 真顔で主への質問。


「主を敬えー」

「無理ですね。アホは敬えません」


 執事服は即答した。


「ヒドいよ~っ!」


 そんなこんなで・・・やれ、「疲れたー」だの、「喉渇いたー」「もう一歩も歩けなーい」などと戯言(たわごと)(のたま)う主へ、(早く歩け、このバカマスターが)という暴言を抑えつつ、えっちらおっちらと歩き続けた二人だった。


 ちなみに、執事服…ヴァンが一番ツラかったのは、暴言を抑えることだったとか・・・


 二人が城へ辿(たど)り着いたのは、夕日が落ちて(しばら)く経ってからのこと。


 城としては規模が小さくても、子供が最初に思っていたよりは大きかった。


 閉じた城門の前に立つこと数分。

 辺りを見回すが、見える場所に門番はいない。


「さて、マスター」

「なーに?」

「どう声をかけましょうか?」

「どうもこうも、素直にホントのこと言うしかないでしょー?」

「本気ですか?」

「すみませ~んっ! 旅のモノですけど、しばらく泊めてもらえませんか~っ!?」


 と、大声で叫ぶ子供に、ヴァンは溜息を吐いて暮れた空を見上げた。


※※※※※※※※※※※※※※※


『親愛なる妖精さんへ。


 元気にしているでしょうか?

 あなたには、感謝してもしきれませんね。


 突然のお手紙、不審に思ったでしょうが・・・

 実は、わたしはもう長くないのです。

 いきなりこんな切り出しで、あなたを驚かせてしまったかしら?ごめんなさいね?

 でも、冗談なんかじゃないのですよ?

 寄る年波には勝てませんもの。

 旅立つ準備を進めています。


 けれど、わたしにはどうしても心残りがあるのです。心配で心配で堪らないことが・・・

 なので、わたしの親愛なる妖精さんに頼もうと、筆を執った次第です。


 わたしが逝くと、あの子が独りになってしまうのです。それが気掛かりでなりません。

 どうか、年若く孤独なあの子を気に掛けてやっては頂けないでしょうか?


 これが、わたしの最期の願いです。

 どうか、叶えてください。


 あなたにあの子を気にして頂けるのなら、わたしは安心して旅立つことができます。


 妖精さんへ。愛をこめて。ジャンヌより』

 読んでくださり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ