序章(幸成)夢で逢いましょう
気付くと幸成は不思議な砂漠の中にいた。空には雲ひとつ浮かんでいない。太陽がひたすらに輝いていた。
それは確かに砂漠の砂だった。しかし所々に石でできた塔のようなものが建っていて、その高さはどれも5mほどある。
どこまでもそんな砂漠が続いている、わけではなく、ある方向には緑が見えた。どうやらそこには木々が生い茂っているようだ。
何より不思議だったのは、暑くないことだった。いや、暑くないどころか少し肌寒かった。明らかに昼間の砂漠であるのに、太陽が強く照りつけているのに、ひんやりとしている。
夢だ。そう、俺は確かにアパートの部屋で眠ったはず。こんなおかしな場所が地球上にあるわけがない。しかしどうせ夢なら、もっと楽しい夢がよかったな。
幸成はその世界を歩いてみることにした。緑が見える方向以外は、ただひたすらに砂漠が続いている。点々と存在する謎の塔も、数え切れないほどたくさんあった。
幸成が驚いたのは、自分が昨日来ていた洋服をそのまま着ていることだった。寝るときのスウェットではなく、大学へ行った時の格好。一歩進む度に、スニーカーの中に砂が入っていく。
せっかくだからあの緑がある方へ行こう。オアシスでもあるのかな。
しばらく歩き続け、やがて緑は目の前に。そこは突然に森だった。砂漠と森の境界線が明確で、森へと踏み込んだ途端にその地面は土になった。姿は見えないが鳥や虫もいるようで、その鳴き声が幸成の耳に届く。
森の中は薄暗かった。砂漠であれほど照りつけていた太陽は鬱蒼と生い茂る木々の葉っぱに隠れている。
そうして雑草を踏みしめながら奥へと進んでいくと、そこには池があった。池には太陽の光が差し込んでいる。トンボが飛んでいて、小鳥が飛んでいた。穏やかで、静かだった。少し不自然だったのは、風がなかったことだ。砂漠にいても森にいても、風の一切が感じられなかった。木々は静かに立っているだけで、その葉をこすらせる音を立てていない。
幸成は池のほとりに、幸成と同じ年くらいの1人の女の子が座っているのを見つけた。ショートカットの彼女はただそこに座って、何もしていない。
「あの!」
幸成は声をかけ、彼女に向かって歩く。彼女は幸成に気が付き、目を丸くして言った。
「人だ……。えっと、こんにちは?」
「こんにちはかな。俺は寝ていたはずだったんだけれど」
俺でも、夢の中なら女子と簡単に話せるんだな。現実でもこうやって普通に会話できたらいいのに。
「私もそう。だからこれは、夢だよね?」
「夢だろうね」
幸成は女の子近くに座って、そして池を眺めた。小さな池だった。水は澄んでいて、池の底には草が生えていたり、石が転がったりしている。
「知らない人が夢に出てくるなんて、私、初めてかもしれない」
「俺は、こんなに鮮明で、こんなにおかしな夢を見ることさえも初めてだよ」
「私も」
「えっと、名前は、あるの?」
幸成の質問を聞くと、彼女は訝しげに幸成の顔を見た。そして突然納得したように。
「そうか。あなたにとっても私は夢の住人だものね。名前なんてないかもしれないから、そういう質問になるわけか」
「あ、失礼だったらごめんなさい」
「いいえ。私は紗里。赤間紗里って言うの」
幸成は驚いて、そして夢の世界はそこで終わった。




