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お姫様。悪女を知る。3

投稿が遅くなりすみません。

マイペースですがなんとか続けたいです・・

しとしとと降る雨が髪を伝い、顔を流れていく。ほうと息を出せば、吐いた息で唇がほんのり暖かくなった。屋敷の軒先に入り窓を覗くとガラスに薄っすら自分が映っている。

ボロの様な灰色の外套にのるのは人間にしたら10代半ばの少年の顔。けれど、髪から飛び出た長い耳が彼がエルフ族である事を示していた。美貌の種族ではあるが、長い髪は薄緑のぱさついた干し草の様で赤黒く色ずいた毛先が禍々しい。のぞく顔はつくりは美しいが、見えている肌のそこかしこに肉を裂いた古傷があった。もちろん見えていない場所にも。昔、助けを求めた同胞はこの顔を見て逃げた。ーー手を差し出してくれたのはあの人だけ。

耳がひくりと動き、遠く物音をひろった。屋敷の中で扉が開閉されたのだろう。

出てきた!

物音をたてないよう、気が付かれないように気配を消して屋敷の反対側へまわる。人の気配のする辺りで窓の下にそっと潜んだ。


そろりと中を覗くと背の高い男がティーセットを抱え部屋から廊下へ出たところのようだ。グレイと呼ばれる男はやっと寝付いた少女を起こさないようそっと扉を閉める。彼が廊下へ向きなおると先客が2人待ち構えて居た。

先ほど寝かせた少女と同じく10代半ばの少女が2人、侍女のお着せを着ている。侍女のレラとロラだ。明るい金髪のショートヘアに青い瞳の2人は双子の様にそっくりだ。そしてそっくり同じあからさまに軽蔑したような顔でグレイを見ている。

「「夜分に女性の部屋で何してるのロリコン野郎。そんなおぞましいもん飲ませて気持ち悪いわオカマ野郎」」

声音もまったく同じ少女達は見事なシンクロ罵りをする。

グレイは慣れているので2人の視線と口調に怒ることはないが、呆れを含んだ笑いを漏らした。

「こんばんは可愛いお嬢さん方。レディがそんな言葉を使って、はしたないわよ」

そのままグレイは母屋への渡り廊下へと向け進める。

「それで、お姫様の様子はどう?」

「相変わらずジメジメしてるよー。死ねカマ」

「うちらとも話さないし。掃除とかしかやること無くてマジ退屈ー。もげろカマ」

「貴女達ったら、雇い主の私にそんな言葉使いしていいの?一人前になれるかコレはテストなのでしょう?」

グレイはやいのやいのと反論と罵詈雑言を放ちながら着いてくる少女達を引き連れて歩みを進める。

やっと寝付いた彼女を起こさないよう少女達をあの部屋から離したいのだろう。騒ぐ少女達は雇われなのだから放っておけばいいのに。

ああもう!あんな生意気な雌共に構ってないで『ジグ』を見てくれればいいのに!今見つかるとお仕事抜けてきたのバレちゃうからダメだけど。

歩いた先、別邸から母屋へ向かう渡り廊下への入口で3人は足を止めた。そこには待っていたように1人青年が立っていた。

青年は長身のグレイよりもさらに頭1つ高い背丈に、比べようもなく分厚い体は人間離れして見える。事実、頭から生える2本の角と背後に引きずる黒い鱗に覆われた重たげな尻尾を持つ彼は人ではない。かっちりと着こなす貴族風の服から覗く黒い肌、美しくも威圧的な顔に左目を隠す黒い眼帯でより近寄り難い雰囲気を醸し出している。人外の青年は手に持ったこれまた上等な黒いマントをグレイに差し出し、咎めるように彼を見下ろす。

「グレイ様、出立の準備が整いましたのでお迎えに上がりました」

「ありがとうフリード」

グレイはティーセットを双子に渡し、片付に行くよう促した。

「これ片付けお願いね。貴女達も早く寝なさい、女性が夜更かししてはいけないわ」

「「ええーー」」

先程の姦しい様子とは打って変わって消えるような声を少女達は発した。グレイを上目遣いに見上げる目はもっと構ってくれと言わんばかりだ。お年頃、反抗期の少女達は口では邪険にしながらもこの叔父のと一緒にいたいらしい。

馬鹿な双子は反抗期から死ぬまで視界から消えれば良いのに。

少女達にグレイが『お休みなさい』と頭を優しく撫でてキスをすれば、気恥ずかしげにぷいっとそっぽを向く。

「「・・・お休みなさい」」

小さな声で返した少女達は顔もあげずに勢いよく走り去った。

グレイは青年の持つマントに手を伸ばし、着慣れたそれに袖を通す。マントの表は貴婦人の着るドレスの様な黒いレースで繊細で美しい模様で目を引く。美しいマントにポカリと浮いた高い鼻と線のような目口の笑顔の、人形めいた容貌が異様な様を感じさせた。

ふわりとそのマントに染み込んだ臭いに嗅覚が敏感なフリードの眉間に微かな皺が刻まれる。

その様にグレイは小さな笑いをもらすと近くの窓ガラスをコンコンと軽く叩いてから開け放つ。

「私の仔リスちゃん、居るのでしょ?こちらにおいで」

あ、あう。どうしてわかっちゃったんだろう。

隠れているのがばれては仕方ないのでジグはグレイひょっこりと窓の外に顔を出した。エルフの少年が力なく耳をたらして現れる。

グレイはぐっしょり濡れたローブのフードをめくり、これまたびしょびしょな少年の前髪をかき分けてやる。

「また濡れ鼠になって・・・雨避けの外套を着なさいと言っているでしょう」

「ご、ごめんなさい・・・『ママ』。で、でもジグはこれのが・・いいの」

小さな声で謝ると下唇を噛む。

ママに言われた事、出来ることなら全部したい。でも優しいママがくれる服は丈夫で守りの呪いがたくさんかかって・・・・雨も風も感じられないし、返り血も付かないし。それじゃ生きてる感じがしないから怖くなるんだ。何にも感じられないって死んでるみたいだし。ママにがっかりされたくないけど、でもママのそばに居る今が夢じゃない確証が欲しい。雨に濡れれば冷たくてああコレが現実なんだと分かるから。

少年は下からじっとグレイを見上げる。視線は避けられない、また直ぐに出かける『母』を出来るだけ見て頭に留めておきたいから。

「お仕事が終わったら温かいお風呂に入るんですよ」

「は、はい。ママ」

「今日もたくさんお仕事したんですって?偉かったですねジグレイド」

ジグレイドは優しく頭を撫でる手と、グレイの言葉に、そして何よりその『母』の顔に胸が身体が暖かくなる。

この幸せのためならジグはなんだって捨てられるのだから。

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